持続可能な経済社会に向けての大変革へ エコ・ファースト推進協議会 2022年度通常総会が開催

2022.4.25 掲載

4月13日、エコ・ファースト推進協議会 2022年度通常総会が都内で開催され様々な議案が審議された。

【議長挨拶】

戸田建設株式会社 代表取締役会長 今井雅則 氏

冒頭、議長の今井雅則氏は、以下のように挨拶した。

一昨年から続く感染拡大は我々の生き方や仕事の進め方に大きな影響をもたらした。さらにはロシア軍のウクライナへの侵攻は全世界を震撼させた。一方、気候危機の状況は確実に進行している。IPCCの報告書では現状のまま何もしなければ今世紀末における気温上昇は3.2℃に達してしまうとのことになる。まさに人類・地球存続の危機といえる。

その対策として我が国も2050年カーボンニュートラルをようやく宣言し、岸田政権においても気候変動対策を経済成長の起爆剤と位置づけている。こうした政策を受け、我々民間企業における活動・対策を加速するべきである。当協議会も本年度新たに6社が加わり、56社となり、さらにその役割に重みを増してきたと認識しており、活動や発信力の強化も先行していかなければならない。

戸田建設株式会社 代表取締役会長 今井雅則 氏

戸田建設株式会社 代表取締役会長 今井雅則 氏

【来賓挨拶・講演】
持続可能な経済社会に向けての大改革

環境省 環境事務次官 中井徳太郎 氏

続いて環境省 環境事務次官 中井徳太郎氏は以下のように挨拶し、講演した。

エコ・ファースト制度は2008年4月にスタートし、本年で15年目となる。この間、パリ協定やSDGsが採択され、世界的にESG投資が拡大し、脱炭素の潮流が広がりを見せた。またパンデミックを契機に持続可能な経済社会の変革の必要性が世界的に一層認識された。さらに今般、ウクライナ危機により原油や原材料の価格が高騰し、エネルギーや食の自立という視点も従来にも増して重要になっている。

先般公表された気候変動に関する政府間パネルの報告では、世界的に合意されている1.5℃の気温上昇の目標を実現するには2020年から遅くとも2025年以前にCO2の排出量を減少に転じさせる必要があるという指摘がなされた。地球と上手につきあう成長の在り方が世界中で模索されている。こういった中、昨年のCOP26でパリ協定のルールブックが完成し、脱炭素市場を巡る世界競争の目標と条件が整った。
脱炭素を追いかけるように自然資本や循環経済の大きな国際的なうねりも起きつつある。この分野は今や世界が注目する成長分野。我が国が率先して取り組みを行うことで

3800兆円とも言われる世界のESG資金を呼び込み、新たな成長のエンジンともなり得る。環境省は経済社会変革に向けた新たなマーケットを創造する巨大な需要創造官庁にならなければならない。環境省は特に地域やくらしといった観点に着目し、分野横断的に現実的に持続可能で活力ある経済社会をつくるための政策を進めていく。同時に動きの速い世界の脱炭素市場を成長につなげるための政策を、覚悟を持って企業の皆さまと共に進める。こうした政策を推進する上で各業界の先進企業である皆さまはかけがえのないパートナーと言える。制度開始15年という節目の年にエコ・ファースト推進協議会がますます発展していくことを願っている。

環境省 環境事務次官 中井徳太郎 氏

環境省 環境事務次官 中井徳太郎 氏

【持続可能な経済社会に向けての大変革/講演要旨】

地球規模の危機に対応するための社会変革が不可欠に

令和元年の東日本台風をはじめとする気候危機や新型コロナウイルスのパンデミックに加えて、さらに今般、ウクライナ危機という地政学的リスク(衝突)が起こり、原油・原材料価格が高騰している。エネルギー・食の「自立」の視点も重要になり、持続可能な自立・分散型経済社会への変革の必要性が、さらに高まった。新型コロナウイルスのような新興感染症は、生物多様性の損失や気候変動による地球環境の変化が深く関係している。人間生活、経済・社会システムが地球全体の環境に悪影響をおよぼすことから、こうした地球規模の危機に対応するためには、経済・社会システムや日常生活の在り方を大きく変える社会変革が不可欠となってきた。

ダボス会議が発表するグローバルリスクの上位は、ここ数年、その大半が環境関連リスクである。気候関連の災害により発生した世界の経済損失額は増加傾向にあり、世界の大手企業が受ける潜在的な財務インパクトは約110兆円と見積もられるなど、気候変動が企業の持続可能性を脅かすリスクとなりつつある。その結果、脱炭素化によって、リスクの回避、機会の獲得を目指す潮流が起きている。そういった中でESG金融が世界的に注目を集めており、2016年から4年で我が国のESG市場は5.8倍に拡大し、今後も加速していくだろう。

脱炭素経営という言葉が最近よく聞かれる。企業にとって気候変動対策は、「CSR活動の一環」から「経営上の重要課題として全社を挙げて取り組むべき事項」に、位置付けが変わってきている。我が国においても、2021年現在、TCFD賛同企業数が世界1位、SBT認定企業数世界3位、RE100参加企業数が世界2位であるなど、脱炭素経営に向けた取組が拡がっている。

エネルギー、物質、空間の3つの切り口で経済社会をリデザイン

2050年のカーボンニュートラルを実現するために2030年までは勝負の時である。しかしCO2を減らすということは我慢合戦ではない。では社会変革はどのようにして行っていくか。それは、社会経済の在り方も健康にし、地球全体を健康にしていくことに他ならない。地球を健康体にしていくイメージを、環境省では地域循環共生圏(ローカルSDGs)としてまとめている。脱炭素社会というエネルギー、循環経済という物質、分散型・自然共生社会という空間に関わる3つの切り口が、それぞれバラバラではなく、関連しあいながら経済社会をリデザイン(再設計)していく、というものである。

地域循環共生圏では、森、里、川、海という地域資源を活かし、自立・分散型の社会を形成していく。それぞれ自立した都市と農山漁村があり、都市からは、エコツーリズムや地域産品の消費などを通して農山漁村へ資金・人材などの提供が行われ、逆に農村漁村からは食料・水、自然エネルギーなどの自然資源や生態系サービスが供給されていく。このように、自立する地域が相互に連携し、機能する地域循環共生圏は、人間の体が、37兆もの細胞がそれぞれ自立・分散して機能しながら、1つの生命体として調和している姿に例えられるだろう。

2030年までに国土の30%以上を自然環境エリアへ

脱炭素社会に関しては、今後5年間に政策を総動員し、人材・技術・情報・資金を積極支援し、2030年度までに少なくとも100か所の「脱炭素先行地域」を創出するとともに、全国で自家消費型太陽光、省エネ住宅、電動車などの重点政策を実行していく。資金面では地域脱炭素移行・再エネ推進交付金によって脱炭素先行地域等を推進する地方公共団体等を継続的に後押ししていきたい。また脱炭素事業に意欲的に取り組む民間事業者等を集中的、重点的にサポートするため、複数年度にわたる継続的かつ包括的な資金支援の一環として出資制度も創設していく。

それらと同時に、分散・自然共生社会に関しては、2030年までに国土の30%以上を自然環境エリアとして保全していく「30by30」に向けた取組を進める。「30by30」は「ポスト2020生物多様性枠組案」の目標案の一つとして掲げられている枠組である。現在は陸で20%であるため、後の10%を増やしていくために、保護地域(国立公園等)の更なる拡充・管理を図るとともに、保護地域以外で生物多様性保全に貢献する企業有林や社寺林等を認定するしくみを設ける。

今、世界でのESG金融に関して、TCFDの自然資本・生物多様性版であるTNFDによって、気候変動だけではなく、自然資本・生物多様性の分野においてもESG情報開示が求められる可能性が出てきている。
また、循環経済に関しては、欧州を中心に循環経済の動きが活発化しており、今年3月には、プラスチック汚染に関する国際枠組みの交渉開始が合意された。日本ではプラスチックに係る資源循環の促進に関する法律が4月から施行された。今、従来の枠組みの中で取り組みを推進する時代から、新しい経済社会を創る時代になった。そこではエコ・ファースト推進協議会の皆さまのようなリーダーシップを取る企業のコラボが必要となる。そのために環境省もいっしょに汗をかいて動いていきたい。

新議長に島津製作所の代表取締役会長の上田輝久氏が就任

今回の通常総会では島津製作所の代表取締役会長の上田輝久氏が、新しくエコ・ファースト推進協議会議長に選任され、就任し、以下のように挨拶した。

株式会社 島津製作所 代表取締役会長 上田輝久 氏

株式会社 島津製作所 代表取締役会長 上田輝久 氏

エコ・ファースト推進協議会は2009年に発足し、当時は23社という状況の中で今は56社にまで拡大した。着実に成長し、進歩してきたと言える。今後、さらに成長させていくことがそのまま環境問題の解決につながっていくこととなる。そこでは以下の3点が重要になると考えている。

1点目は推進協議会に加盟する企業をいかに早く増やしていくか、だ。環境問題を本気で解決していこうとするなら、我々56社だけでは不十分であり、より多くの企業に参画していただき、いろいろな新しいアイデアで様々な環境改善活動を進めていくことが非常に大事になる。島津製作所も一昨年にエコ・ファースト企業に認定されたが、私どもの本社がある京都を中心に様々な企業を訪ね、認定される企業を増やそうという取り組みを進めている。皆様のほうでも認定企業を増やし、啓蒙していく取り組みをいっしょに進めていただければと考えている。

2点目は先進性・独自性の追求を挙げたい。グリーンイノベーション、あるいはGXグリーントランスフォーメーションと呼ばれる時代になったが先進的な取り組み、あるいは独自的な取り組みが日本企業や組織・団体に必要になってきた。今、こうして皆様がエコ・ファースト企業に認定されていることは他と比べれば先進性・独自性に満ちた取り組みをしている企業に他ならない。そのためにこれを追求していくことが協議会の中で重要テーマになり、そこではいろいろな企業の取り組みを参考にしてことが必要になる。

3点目は協働。様々な取り組みがそれぞれの企業が中心になって進められているが、これらを協働していくことがこれから重要になる。持続性・サステナビリティという観点では、事業として成立する取り組みが大事なポイントになる。それぞれの企業の取り組みを深堀し、協働が可能か、を考え、取りいれていくことで大きな協働につながり、効果も増大していくのではないだろうか。なお私ども島津製作所は環境モニタリング装置も事業にしている関係上、環境省の方々といろいろな会合を持っている。もし皆さまのほうで環境省に質問や意見があれば当社がパイプ役になることができる。必要であればぜひお声掛けいただきたい。

本協議会は、過去議長会社としてキリンビール様、ライオン様、積水ハウス様、戸田建設様が担ってこられ、この協議会の発展に多大なる貢献をされてきた。それを支えてこられたのが皆さんであり、これから我々がさらに進化させていくことになる。私自身も非常に深刻になっている環境問題に対し、より一層真剣に取り組んでいきたい。

エコ・ファースト推進協議会2022年度通常総会は、すべての議案が審議・承認され、無事終了した。