グリーン購入ネットワークが「持続可能な調達の実現へ ~脱炭素、ESG等のキーワードから考える企業の役割と情報開示~」をテーマに講演会を開催

2022.6.28 掲載

2022年6月7日グリーン購入ネットワーク(以下、GPN)は、「持続可能な調達の実現へ ~脱炭素、ESG等のキーワードから考える企業の役割と情報開示~」をテーマにオンラインにて講演会(協賛:一般社団法人サステナビリティ情報審査協会)を行った。

気候変動問題に取り組むにあたり
サプライヤーを巻き込むことが不可欠

GPN会長(東京大学大学院教授)の梅田 靖氏は「持続可能な調達(消費と生産)の推進に向けて」と題する基調講演の中でサステナビリティを企業活動の「中心に」取り込まないと企業が存続できなくなるという時代認識を強調。また変化が速い現代では「戦略モデル」から企業が社会や顧客に対して何をどうしたいか、というビジョンが企業の隅々にまで浸透し、様々なDoに挑戦する「ビジョンモデル」が求められることを伝えた。

さらに近年、国内外でESG投資額が伸びる中、企業の調達活動においては、生産地の生態系への影響や労働者の権利、労働環境等、環境面や社会面に配慮した原材料の調達の実施状況が重視されており、企業を評価する要素の一つとなっていると力説。“グリーン購入は、円(¥)の投票であり、一人の百歩から百人の百歩へ”をテーマに「買う」という行為がサステナブルにつながるよう、グリーン購入大賞による顕彰や各種セミナーなどによる啓蒙活動を行っているGPNの意義を確認し、講演を結んだ。

一般社団法人 CDP Worldwide-Japan松川 恵美氏は「サプライヤー・エンゲージメント評価の視点からみる日本企業への期待」との基調講演で企業が自社サプライヤーに対しどれだけ効果的に働きかけているのかを見る指標である「CDP Supplier Engagement Rating (以下、SER)」に言及。企業のバリューチェーン上流におけるGHG排出量は、直接的な操業による排出量の約11.4倍となり、気候変動問題に取り組むにあたりサプライヤーを巻き込むことが不可欠であるという認識から、SER を2016年より開始したことを紹介し、ベストプラクティスを認めるシステムを構築する購買組織・企業のエンゲージメントの動きを強化させ、全世界のサプライチェーンにおける排出量削減への取り組みを加速させることにつながっていると話した。

イオン株式会社 環境・社会貢献部部長 / GPN代表理事 鈴木隆博氏、大日本印刷株式会社 サスティナビリティ推進部 CSRグループ佐藤敦氏による自社の取り組み事例の報告の後、「持続可能な調達における企業に求められる役割と情報開示」をテーマにパネルディスカッションが行われた。

ここではGPN会長(東京大学大学院教授)の梅田靖氏をファシリテーターに一般社団法人CDP Worldwide-Japanの松川恵美氏、イオン株式会社の鈴木隆博氏、大日本印刷株式会社 佐藤淳氏、有限会社サステイナブル・デザイン 代表取締役/ GPN理事西原弘氏、一般社団法人サステナビリティ情報審査協会 代表理事 松尾幸喜氏がパネリストとして登壇した。

CDPの松川氏は、企業に求める設問によって多様なリスクと機会をサプライチェーンも含めた中で目標を数値化でき、それを共有していくことで難しい課題も解決につながっていくことを伝えた。また脱炭素への移行計画においてもサプライチェーンを巻き込んでいく設問の重要性を強調した。

サプライチェーンに波及する
気候変動に伴う経営リスク

取り組み事例をプレゼンテーションしたイオンと大日本印刷については、サプライヤーとなる企業に対して排出削減をどのように求めているか、について梅田氏より質問。

イオンの鈴木氏は、目標が10年前倒しされ、2040年にネットゼロを実現していくというストレッチ化の中でプライベートブランドの生産に対してサプライヤーと排出削減におけるコミュニケーションをとっていること。その中で削減などの方針を持つところが中小零細企業を中心に半分程度であったことから、今、もう一歩踏み込んだ取り組みができないかを検討していると話した。

大日本印刷の佐藤氏はGHGの排出量が原材料やサプライヤーに関するSCOPE3に属する部分で半数となる現状に言及。自社に関しては2050年まで排出量にゼロを目指しているものの自社の努力だけでは半分は残ることから、主要サプライヤーと個別打ち合わせを徹底している最中であると述べた。

サステナビリティ情報審査協会の松尾氏は、台風などの激甚災害や低炭素社会対応の規制強化などで工場が稼働できなくなれば原材料の供給が止まるなど気候変動に伴う経営リスクがさらに高まり、そのような経営リスクに関する透明な情報開示への社会的要請が高まっていることを強調した。

企業間にもあてはまる
「共通だが差異ある責任」の原則

サステイナブル・デザインの西原 弘氏は、全企業の75%が従業員20人以下の零細企業であるという実態に着目。数多くのサプライヤーもそこに含まれ、結果、サプライヤーを評価する設問については従業員が少ない企業では分厚い設問に対して回答を担当する人材自体が確保できず、情報を求める側も企業規模に合わせた設問内容を再定義する必要性を強調した。

中小企業や零細企業に対するサプライチェーンへの対応について大日本印刷の佐藤氏は設問に対する歩み寄りの重要性を力説。設問を一方的に渡し、額面通りに書かれている設問にそのまま答えれば取り組みが「できていない」がほとんどなるが、サプライヤー一社一社とコミュニケーションを取り、現状に対して丁寧に耳を傾けていけば「できている」ことが増えていく事例を紹介。ベクトルを合わせ、歩み寄る蓄積がさらに求められると話した。

西原氏は1992年に開催された地球サミットで採択された環境と開発に関するリオ宣言にある「共通だが差異ある責任」の原則が、大企業と零細企業との関係にもあたると考察。サステナブルよりもサバイバルが求められる零細企業のスタンスの中で本当のサバイバルのためにはサステナブルの理解が急務であること。そこに直結するTCFDリスクと機会への対応の重要性を訴えた。