戸田建設のイノベーションを加速するイノベーション推進統轄部 イノベーション推進統轄部長樋口正一郎氏に聞く

2022.6.29 掲載

戸田建設株式会社では、本年5月に「中期経営計画2024ローリングプラン」を策定、業績目標について一部見直すとともに、その達成に向けた戦略を強化し、更なる変革を進めることによって持続的成長の実現を目指している。同社のイノベーション本部イノベーション推進統轄部長として指揮を執る樋口正一郎氏に、カーボンニュートラルの実現に向けてどのような役割を果たしていくかなどをインタビューした。

戸田建設株式会社 イノベーション本部イノベーション推進統轄部長 樋口正一郎 氏

戸田建設株式会社
イノベーション本部イノベーション推進統轄部長 樋口正一郎 氏

イノベーションの最新情報を届け、各部門の課題解決を支援

――この春に誕生したイノベーション推進統轄部は、どのような組織になっていますか。

樋口:イノベーション推進統轄部はイノベーション戦略部と環境ソリューション部、新技術・事業化推進部、管理企画部の4部で構成されています。イノベーション戦略部は、社外のベンチャー等のリソースを柔軟に活用するオープンイノベーションを実践すると共に、スタートアップ企業への投資を行っています。

環境ソリューション部は戸田建設グループ船体の環境への取り組みを全体的にマネジメントし、新技術・事業化推進部は技術開発研究所と連携し、開発した技術や製品を世の中に送り出していきます。管理企画部は弊社の社会活動委員会*1の中の事務局的な位置づけで活動を推進しています。それぞれに役割はちがいますが、社内外からイノベーションに関する最新の情報を探索し、各部門に展開したり、逆に各部門が抱える課題を聞き、ベンチャー企業といった新しい視点や発想の力を借りてその解決をサポートしたりしていくことがイノベーション推進統轄部の役割だと思っています。

*1 サステナビリティ委員会
取締役会に諮問機関として「サステナビリティ委員会」を置き、執行側に「サステナビリティ戦略委員会」を設置。「ESG+B」という4つの観点から取り組むテーマを議論し、経営資源を適切に配分しながら事業戦略に反映させる

ベンチャー企業を育成するCVCを展開

――環境ソリューション部は戸田建設が全社的に行うCSR活動とはどのように関係してくるでしょうか。

樋口:当社は、カーボンニュートラルの社会の実現を重要課題としてとらえ、環境エネルギー委員会*1を中心に取り組んでいます。同委員会では、戸田建設グループの環境活動の方向性や目標を決定します。私はその委員会の副委員長であり事務局を担当しています。また、活動の状況やその結果としての客観的なデータを社外に向けて積極的に発信する役割も担っています。

――イノベーション戦略部が担うオープンイノベーションでは具体的にどのような活動を展開していますか。

樋口:この部署では2020年からコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を担当しています。投資実行にあたっては、自社への事業シナジーの有無を意識し、かつ、スタートアップ・ベンチャー企業の育成を目的としています。

CVCの投資分野は①施工・施工管理の高度化②空間データの取得と活用③リアル/バーチャルの融合④行動+五感データの取得とサービス化⑤ウェルネスの達成⑥サステナブルなまちづくりの6分野になります。①の施工・施工管理の高度化は現状の本業に近いのでイメージしやすいでしょう。②の空間データの取得と活用は我々がご提供した建物の中の空間データを活用していく分野であり、③のリアル/バーチャルの融合はますます脚光を浴びるメタバースといった仮想世界に関連し、施工を含めたリアルな場にどう展開していくかが課題になります。④の行動+五感データの取得とサービス化は、現実社会で暮らし、働いている人たちの五感データの取得や活用法がテーマとなり、⑤のウェルネスの達成は、健康管理といった人体に絡む部分が対象分野になっています。最後のサステナブルなまちづくりは、これも本業の延長になりますが、環境負荷の少ないまちづくりや地域のエコシステムなどがテーマに挙げられるでしょう。

戸田建設株式会社 イノベーション本部イノベーション推進統轄部長 樋口正一郎 氏

価値観の多様化の中で社外組織との協創は不可欠

――今、様々な企業が事業を継続し、そして社会を持続可能な状態にしていくために
「協創」ということに着目しています。戸田建設が推進するCVCについても同じことが言えると思いますが今、なぜ「協創」が求められるとお考えでしょうか。

樋口:あくまで一例ですがアバターやメタバースといったバーチャルな世界の価値が高まり、デジタルアートに高値がつく時代となりました。一方で、高齢者がますます増えていく時代ですから健康管理にもさらに情報技術が駆使されていくでしょうし、マースといった移動手段をはじめ、自動運転に代表されるモビリティ分野にも新しい発想技術が求められると思います。もはや従来の建設会社の価値観では社会の要請に応えられない時代に移行しました。まったく新しい価値観を持つ企業、特に、成長が見込めるスタートアップ企業との協創が不可欠なのです。

そういった中で今まで考えなかった発想が具現化し、サステナブルな社会の実現に繋がっていくものもあります。イノベーション推進統轄部は、それらを目利きする役割も担っているわけですから、その使命は重大だと考えています。

社会課題解決をサポートする1本の横串に

――御社のイノベーションによってすでに世に出ている技術や製品にはどのようなものがあるでしょうか。

樋口:極低騒音・極低振動・極低粉塵 環境配慮型の杭頭処理工法である「しずかちゃん®」と仮ボルト不要接合工法「ガチャトピン」が代表例として挙げられると思います。

「しずかちゃん®」は、水の凍結膨張を利用して杭頭部に水平方向に制御されたひび割れを発生させ、余盛りコンクリートを撤去可能にしていく工法です。これは従来工法と比べてコンクリートをハツリ削り取るなど作業を低減することで、極低騒音や極低振動、極低粉塵の他、工期短縮を実現し、環境にも人にもやさしい工法となっています。
「ガチャトピン」は大梁鉄骨に取り付けた仮ボルト不要接合治具を、柱ブラケットに差し込むだけで鉄骨柱と大梁鉄骨を仮固定できます。このことで鉄骨建方にかかる高所作業を大幅に減らし、作業効率と安全性の向上につなげています。仮ボルトという仮設材の低減につながることで、環境に配慮した工法と言えるでしょう。

――企業が目指すものは、社会課題の解決であり、それは戸田建設も同じことが言えるでしょう。その中でイノベーション推進統轄部は社会課題の解決に対し、どのようなポジションにあるとお考えでしょうか。

樋口:脱炭素社会はじめ、健康で快適な暮らしを実現していくために様々な社会課題があります。それらの解決のためにイノベーション推進統轄部は技術開発の部門と連携しながら、建築、土木や各支店とつながっていく横串のような位置にあると考えています。我々は戸田建設の社会課題に対する多様な取り組みを横断的にサポートして行きたいと思っています。

――本日はありがとうございました。