いま次世代と語りたい未来のこと ―ポストコロナの持続可能な未来― ~第5回イオン未来の地球フォーラムがオンラインで開催~

 地球の環境変化に伴う自然と人間社会における問題について、最新の科学的知見をわかりやすく解説し、解決すべき課題と方法について考え、議論する「イオン未来の地球フォーラム」(主催:公益財団法人イオン環境財団、東京大学未来ビジョン研究センター、フューチャー・アース)。同フォーラムは「いま次世代と語りたい未来のこと」というメインテーマのもと2017年から開催されてきた。第5回となる今回は2月6日「ポストコロナの持続可能な未来」をテーマにオンラインで行われた。

全世代がチームとなって持続可能な社会へ

 冒頭、主催者として挨拶に立った東京大学総長の五神真氏は、コロナ復興後の社会がサイバー空間と現実空間が高度に融合したソサエティ5.0社会へと進む可能性に言及した。地球の環境を人類全体の共有地として守っていくためには、実空間と密接に絡み合っているサイバー空間もコモンズとして皆で守り合う、重要性と知識集約型のスマート社会をリードする大学の役割と使命を訴えた。
 公益財団法人 イオン環境財団で専務理事を務める山本百合子氏は、同財団が1990年の設立以来、森づくり・環境教育・環境団体への助成を主な事業として活動してきたことを紹介した。昨今は地域との連携を重視し、環境、経済、社会と多面的に捉え、「地域循環共生圏」の考えのもとにイオンの里山づくりを新たに開始したことを伝えた。また社会全体がこのフォーラムのように世代を超えて一つのチームとなって対応することで、持続可能な社会を実現できるだろうと述べた。

東京大学総長 五神真氏

東京大学総長 五神真氏

最新の科学的知見からポストコロナの人・社会・教育像を展開

同フォーラムでは山極前京都大学総長をはじめとする専門家による基調講演が行われ、ポストコロナの人とのつながりやあるべき社会像、教育像について大要、以下のように論じられた。

基調講演1  京都大学 前総長 山極壽一氏「自然と人間の関係を問い直す」

 人間の脳は集団規模を大きく進化させる中で増大し、霊長類の大脳化は社会の規模の拡大と正の相関関係にあった。そして人は大集団になると動物のような共鳴音ではなく、身体以外の指標である言葉を必要とし、そのことで人類はより大きな社会力を持ち、言葉から通信革命、情報革命が起こった。現在、問い直さなければならないのは、「いのち」と「いのち」のつながりである。今、私たちは、現実よりもフィクションに生き、安全が安心できなくなり、個人がコミュニティと切り離される不安の時代にいる。その時代の中で人をつなぐのは文化ではないだろうか。文化は地域に根差しながら、グローバルに共有できる。またコロナ後の社会に必要なことは文化をつなぐことである。そして人間は人間以外の「いのち」を含めてシェアとコモンズを再考する必要がある。

京都大学 前総長 山極壽一氏

京都大学 前総長 山極壽一氏

基調講演2 東京大学未来ビジョン研究センター 教授 高村ゆかり氏「よりよい未来に向かう復興」

 ウイルスの感染拡大は人間の経済活動や気候変動による生態系の破壊などとの密接な関係にあり、それは「自然からの警告」であった。そして今回の感染症は社会の脆弱性、レジリエンスという課題を浮き彫りにした。そこから考えれば現在の社会の延長線上に「ありたい未来」はないであろう。だからこそ、実現したい未来の社会のかたちを描き、ゴールへ至るための課題と道筋を考えることが重要であり、Transformation(変革)とTransition(移行)が求められる。そこで着目したいのがグリーンリカバリーだ。それは必要なレジリエンスを強化でき、将来の感染症、気候変動などのリスクも抑える。そして「ありたい未来」を実現していく大きな社会システムの転換の契機になりうるだろう。今、グリーンリカバリーが世界で進行している。そういった中、世界はカーボン・ニュートラルへ向かい、そこで企業や金融も変わりつつある。気候変動対策によって脱炭素でレジリエントな地域主導の地域をつくり、地域課題を解決する気運が生まれている。

東京大学未来ビジョン研究センター 教授 高村ゆかり氏

東京大学未来ビジョン研究センター 教授 高村ゆかり氏

基調講演3 国立情報学研究所 所長、東京大学 教授 総長特別参与 喜連川優氏
「実世界からサイバー空間へと人間活動の場をシフトさせたCOVID-19」

 コロナ禍でLINE利用動向が拡大した。またZoom社の株価は41%上昇し、時価総額はIBMを超えた。今、会社員はテレワーク、教師・研究者・学生は遠隔授業を普通に行っている。誰もそれまでZoomなど使っていなかったが、「やってみたら結構できる」と多くの人が感じ、デジタル社会への変化を実感している。これからは対面と遠隔ハイブリッドがデフォルト(定番)」となっていくだろう。
 それらを踏まえて、今後のポストコロナ時代における学びの在り方について、「教育再生実行会議デジタル化タスクフォース」で「学習コンテンツプラットフォーム」を提言した。それは、誰もがどこの大学の講義も聴け、偏差値で大学を選ぶのではなく、学びたい学問と先生を探せるプラットフォームである。もはや答えが決まっている問題を解く時代ではない。答えのない世界への挑戦へ、教育をリセットして考え直す時代が来ている。

国立情報学研究所 所長、東京大学 教授 総長特別参与 喜連川優氏

国立情報学研究所 所長、東京大学 教授 総長特別参与 喜連川優氏

次世代を担う代表として高校生を交え、世代や立場を超えて意見交換

 第2部では、ポストコロナの持続可能な未来について、事前アンケート調査から得た視点や考え方を、渋谷教育学園幕張高等学校、三重県立四日市高等学校、山陽学園高等学校の生徒が発表した。高校生が実感している直近の生活と未来に対する変化やデジタル化の中での人間性、海洋ごみ問題を通しての今、そして未来はどう変わるか?などが語られた。
 さらにパネルディスカッションでは基調講演を行った3氏に加え、神奈川県政策局 SDGs推進担当部長太田 裕子氏、公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)戦略マネージメントオフィス コミュニケーション・共創担当ディレクター大塚 隆志氏、フューチャー・アース国際事務局 日本ハブ事務局長春日 文子氏がパネリストとして登場し、自身の活動内容を紹介した。さらに今後のあるべき地域像について発表を行った高校生たちと討論し、世代を超えたつながりの温かさや人と人との一体感をもつ地域の魅力が話された。

フォーラム視聴を終えて ~人の意志の結合、それがポストコロナの課題~

 公益財団法人 イオン環境財団の山本氏は、挨拶の中で同フォーラムを例に、持続可能な社会が実現できるために、社会全体がチームとなる重要性を述べた。サイバー空間と実空間の融合が様々な登壇者から語られる中、求められたのはそのつながり方だった。それは山本氏のいうチームのような主体的な連携かも知れない。同財団は「お客さまを原点に平和を追求し、人間を尊重し、地域社会に貢献する」というイオンの基本理念のもと、様々なサステナブルな展開を行っているように、人類はSGDsという世界共通の指標をベースに、今後、どのようにして意思を結合していくかが問われている。

イオン環境財団 専務理事 山本百合子氏

イオン環境財団 専務理事 山本百合子氏