パタゴニアの次章:「地球が私たちの唯一の株主」次の50年に向けたスタート 「株式公開に進む(Going public)」のではなく「目的に進む(Going purpose)」~パタゴニア日本支社

2022.9.22 掲載

剰余利益を配当金として支払い、危機との闘いに役立てる

アメリカの登山用品、サーフィン用品、アウトドア用品のメーカーでありブランドで知られるパタゴニアが9月15日(日本時間)、会社の新たな所有形態を発表した。その創業者イヴォン・シュイナードのシュイナード・ファミリーは、2つの新しい組織であるthe Patagonia Purpose Trustとthe Holdfast Collectiveにパタゴニアのすべての所有権を譲渡し、これが即時有効となった。これによってパタゴニアの事業に再投資されない資金のすべてが地球を守るために配当金として支払われることになる。

Patagonia Purpose Trustは会社のすべての議決権付株式(全株式の2%)を保有し、パタゴニアの目的とバリューを大切に継続していくためのより永久的な法的基盤を形成。また、創業者の志から決して逸脱しないように、「営利企業として資本主義が地球の役に立つことを証明する」というパタゴニアが最善を尽くして継続すべきことをより確実に推進していくという。

一方 Holdfast Collectiveはすべての無決議権株式(全株式の98%)を保有し、受領した資金のすべてを自然や生物多様性を保護し、活発なコミュニティをサポートしながら環境危機と闘うために使用。そして毎年、パタゴニアが事業に再投資しなかった剰余利益を配当金として支払い、危機との闘いに役立てていくとのことだ。ちなみにパタゴニアは、事業の健全性に応じて、年間約1億米ドルの配当を支払うことを想定している。

パタゴニアの創業者であり前オーナー、そして現取締役会構成員であるイヴォン・シュイナードは次のように述べている。

「私たちが責任あるビジネスという実験を始めてから50年近くが経ちました。この先50年の地球の繁栄を願うのなら、私たち全員が、今手にしているリソースでできることをすべて行うことが不可欠です。ビジネスリーダーになりたいと思ったことはありませんが、私はこの役割でなすべきことを行っています。私たちは自然から価値あるものを収奪して富に変換するのではなく、パタゴニアが生み出した富をその源を守るために使用します。地球を唯一の株主にするのです。私は真剣です。この地球を守ります。」

パタゴニアはBコーポレーション認証を今後も維持し、毎年売上の1%を草の根の活動団体へ寄付すること継続していく。会社の経営陣において変更はなく、今後もライアン・ゲラートがCEOを務め、シュイナード・ファミリーは、引続き、クリス・トンプキンス、ダン・エメット、アヤナ・エリザベス・ジョンソン、チャールズ・コン(取締役会議長)、ライアン・ゲラート(CEO)と共にパタゴニアの取締役を務める。また、会社の支配株主であるPatagonia Purpose Trustに指針を示し、取締役会構成員の選任や取締役会の監督し、Holdfast Collectiveが実施する慈善活動を指導していくことになる。パタゴニアの取締役会とPatagonia Purpose Trustとが協働することで、パタゴニアがその目的と価値観に忠実であり続け、長期的な成功が継続できるように取り組んでいく。

パタゴニアのCEOであり取締役会のメンバーでもあるライアン・ゲラートは次のように述べている。

「2年前、シュイナード・ファミリーは私たちの数人に『大きな2つの目標に取り組む新たな組織形態を構築する』という課題を提示しました。彼らは、私たちがパタゴニアの事業の目的を守ること、環境危機と闘うためのより多くの資金を即時かつ永久的に提供できるようにすることの両方を望んでいました。私たちはこの新たな組織形態でその両方を実現できると確信していますし、人間と地球を第一に考えたビジネスを営む新たな方法がさらに引き出されることを願っています。」

世界中の従業員が目的に向かって永遠に力を発揮

パタゴニアは2022年9月15日、全世界を対象とした社内集会でこのニュースを最初に従業員に共有。その直後、ウェブサイト(Patagonia.jp)を更新し、創業者イヴォン・シュイナードからのメッセージと共に、「地球が私たちの唯一の株主」となったことを公表した。

【パタゴニア取締役会構成員からの追加コメント】

「私が初めてイヴォンと出会ったのは彼が24歳の時でした。その彼もあと少しで84歳になろうとしています。その間ずっと、彼のビジョンが揺らぐことは決してありませんでした。彼自身のやり方で、彼自身の条件で物事を進めたいと思っていました。そして今、健康状態が良好なうちに、会社の将来と地球の将来のための計画を立てておくことを望みました。私は、彼とその家族が協力して作り上げたこの計画が地殻変動を起こすと考えています。これにより、会社の競争力はさらに高まり、世界中の従業員は目的に向かって永遠に力を発揮できるでしょう。」–

クリス・マクディビット・トンプキンス

「新しい科学レポートを読むたびに、気候危機は私たちが考えていたよりも急速に起こり、そしてより深刻であることがわかります。これ以上ないほどの危機なのです。私たちが自然を守り、コミュニティを支えたいと思うのならば、各企業は現在主流の経済モデルに固執し続けることはできません。パタゴニアは何十年かけてこのモデルを打破し続け、とうとうこれを完全に脱却しました。私は今、『次はどの企業が乗り出すのか」という点に注目しています。」–

アヤナ・エリザベス・ジョンソン

「現在の資本主義のシステムは、不平等の拡大や取り返しのつかない様々な環境破壊など、莫大な犠牲を払って利益を得ています。この世界は文字通り火の海なのです。目的への深いコミットメントを通じて資本主義の次世代モデルを創造する企業は、より多くの投資を集め、より優秀な従業員を惹きつけ、お客様のロイヤリティを高めるだけではありません。私たちがより良い世界の実現を望むならば、そのような企業がビジネスの未来を担うのです。そして、イヴォンが今行っていることがこの将来のはじまりとなるでしょう。」

チャールズ・コン(取締役会議長)

「50年近くビジネスを営んでいる会社の創業者として、ビジネスがコミュニティや従業員に対して与えうる、良い影響と悪い影響の両方を見てきました。しかし、私たちも他企業も、地球に与える影響を低減するための有意義な措置を講じていますが、パタゴニアの新しい所有形態は、現存するあらゆる形態の先を行くまったく新しいモデルです。これこそが、私の生涯の友人であり、環境活動の仲間でもあるイヴォン・シュイナードの志に忠実な形なのです。」

ダン・エメット

パタゴニアとは

私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む。
パタゴニアは1973年にイヴォン・シュイナードが創業した、米国カリフォルニア州ベンチュラに拠点を置くアウトドア・アパレル企業。Bコーポレーション認証を取得しており、1% for the Planetの加盟企業である。パタゴニアは製品品質の高さと環境保護活動において国際的に高く評価されている。