サマーワークショップ2022「脱炭素社会に向けた再エネ大規模・急速導入への地域の期待と現実を考え直す」が開催 一般社団法人エネルギー・資源学会

2022.10.6 掲載

再エネ導入が地域社会に与える影響や
地域社会との共生のあり方を考える

一般社団法人エネルギー・資源学会が主催するサマーワークショップ2022「脱炭素社会に向けた再エネ大規模・急速導入への地域の期待と現実を考え直す」が9月9日、東京大学本郷キャンパスを会場に対面・オンラインのハイブリッドで開催された。

同ワークショップのテーマにある通り、大規模かつ急速な再エネの実現は、そこにある期待と共に再エネ施設の一部が迷惑施設化するなどの現実を直視しなければならない状況を迎えている。そこでこのワークショップでは講演やグループワークを通して再エネの導入に対する地域社会の期待とともに再エネの大規模導入が地域社会に与える正と負の両面の影響や再エネと地域社会との共生のあり方などについて考えていった。

ワークショップの開催にあたり、株式会社Looop渡邊裕美子氏により、「国内における近年の再エネ導入の動向」について解説。現状が2030年度目標に対して、導入進捗率が太陽光発電で約58%、風力発電で約19%に留まり、固定価格買取(FIT)制度認定量は、太陽光発電は低迷、風力発電は横這い状況にあること。また再エネ導入に対する課題が様々に顕在化されていることに触れた。

国内最大級の新エネルギー供給基地と
関連産業集積拠点の形成を目指す秋田県

最初の講演では秋田県産業労働部 エネルギー・資源振興課主査の佐藤 直彦氏が登壇。「秋田県の再生可能エネルギー産業政策について~ 新エネルギー産業戦略を中心に ~」と題して行政の視点から県の再エネ産業政策について話した。

まず再エネの導入状況において秋田県は風力発電・地熱発電ともに2位にあることを紹介した。続いて県の新エネルギー産業戦略の策定・改訂の経緯を振り返り、2010年5月に第1回となる秋田県新エネルギー産業戦略会議から秋田県新エネルギー産業戦略・第2期秋田県新エネルギー産業戦略・第2期秋田県新エネルギー産業戦略(改訂版)に至った経緯を説明。国内最大級の新エネルギー供給基地と関連産業集積拠点の形成を目指したと述べた。その中で風力発電では県有地や県有保安林、港湾区域を対象に風力発電事業者を選定するための公募を実施したことを紹介した。また人材輩出や企業育成等、人材育成の拠点化形成や地域への波及効果を生み出す各種取り組みについて述べた。

地域への波及効果では地域への波及効果では工業団地の整備による、付加価値の高い新たな企業立地や地域新電力等を通じて県内需要家への電力供給、さらに発電事業者等の協力により、スマート漁業等の各種漁業振興策が期待されると話した。

利益が社会に広く分配されながら、
不利益が地元に集中する「受苦受益の不均衡」

続いて「再エネ導入の社会的受容」と題し、名古屋経済大学 准教授の本巣芽美氏が講演。風力発電をテーマに導入の際にどのような問題があり、どういった克服の方法があるか、環境社会学の視点から話した。

まず風力発電メリットが、気候変動対策やエネルギーセキュリティの向上など広い地域に及ぼしながら、景観の悪化や騒音、低周波音によるストレスなどデメリットが地元地域に限定されることに言及。問題点が、利益が広く社会に分配されながら、不利益が地元という局所に集中する「受苦受益の不均衡」にあり、「気候変動対策」という大義名分が地域に押し付けられていることから地域にとっても合理的な再エネの導入が重要であることを強調した。またエネルギー転換における課題として地域の将来への投資となる方法となっているか、などを挙げた。またSDGsの「誰ひとり取り残さない」という観点から気候変動対策のために地域を犠牲にしないこと。また脱炭素や気候変動対策に留まらず地域の問題解決にいかに取り組み、シナジーを増大させるかが求められると訴えた。

講演の最後に本巣氏は民家の近くに設置されたもの、大規模なウインドファームのそれぞれ2タイプの構図の計4枚の風力発電の写真を紹介。構図は同じでも地域に利益をもたらすものは賛成されるなど風車は見た目だけでは社会的受容は決まらず、その事業がどのような仕組みになっているか、それが重要になることを力説した。

今後さらに求められる社会的合意と
バランスの取れた電源構成

最後の講演では一般財団法人 日本エネルギー経済研究所計量分析ユニット尾羽 秀晃氏が「土地利用・社会的受容性を考慮した太陽光・風力発電の導入可能性」をテーマにプレゼンテーションを行った。

まず2050年までにカーボンニュートラルを達成するという目標が掲げられている一方で、これまで太陽光発電の乱開発など立地に関わる問題が顕在化していることに触れ、土地利用・社会的制約を考慮した場合に再エネはどの程度まで導入可能か、またカーボンニュートラル達成を前提とした場合の立地影響はどの程度か、などについて話を進めた。

その中で土地利用や太陽光・風力発電の電源間の競合などを考慮すると、地上設置型太陽光・風力発電に適した場所は3,321km2(国土の約0.9%)と推計されたことを紹介。また洋上風力においては「促進区域」の指定要件を考慮すると、洋上風力が設置可能な場所は67,581km2(領海の16%)と推計され、離岸距離が遠い海域や漁業権が設定されていない海域などはさらに限られると述べた。

さらにカーボンニュートラル達成における立地影響については社会的制約が小さいと考えられる場所のみに再エネを設置した場合、再エネで賄える発電電力量は想定したMinorシナリオでは再エネ比率約5割)必ずしも多くなく、その達成を前提とする場合、火力発電や原子力発電などを活用した場合においても、再エネが土地利用・海域利用に与える影響は大きい。そのため、発電設備の設置に伴う社会的合意を得ることは重要となると訴え、バランスの取れた電源構成が必要となると結んだ。

3回の講演内容をインプットしながらグループワークは自己紹介などを含めて3回にわけて行われ、各班が「漁村地域の洋上風力発電」「大都市部の建物系太陽光発電」「農村地域の陸上風力」「里山のメガソーラー」の4つのテーマでディスカッションを実施。大量・急速に導入された場合に再エネ導入が地域社会にもたらす正・負の影響はどのように変化するか。負の影響を回避するにはどうすればよいか、また回避できるのかなどについて議論した。

【一般社団法人 エネルギー・資源学会とは】

1980年4月に「エネルギー・資源研究会」として設立され、10年後の平成2(1990)年には「エネルギー・資源学会」と改称。2009年4月には法人化によって「一般社団法人 エネルギー・資源学会」へ移行した。この間、30年以上に亘って、産・学・官における電気、機械、化学、建築、原子力、バイオ、経済等の広範な分野の研究者、技術者の知見を集積し、学術団体として、様々に変化するエネルギー、資源、環境の諸課題に学術的、業際的な取り組みを行っている。