CDPAリストアワード PART1

環境情報開示を推進する国際NGOのCDPは2022年1月19日にCDPAリスト企業アワードをオンラインで開催した。その主な内容を2回に分けて紹介する。

〈開会挨拶〉 CDP CEO  ポール・シンプソン氏

CDPのCEOを務めておりますポール・シンプソンと申します。本日、「CDP2121Aリストアワード」に、皆様をご招待することができ光栄です。日本のAリスト企業による素晴らしい取り組みを表彰させていただくとともに、ご来賓のAリスト自治体の皆様にも活動をご紹介いただきます。
気候変動、森林減少、不十分な水セキュリティがもたらす影響は、異常気象や自然災害というかたちで既に全世界で認識されています。企業や政府による環境問題への取り組みはこれまでになく重要になっています。

本日、ご参加の皆様が、気候変動を解決するためのリーダーとして、今日のこの場で意識を高め、明日からまた、気温上昇が1.5℃に抑えられた世界の実現、そして2050年までのネットゼロ達成という目標に向けた取り組みを加速されることを願っています。

COP26は、IPCC第6次報告書によって「人類へのコードレッド(緊急事態)である」という警告が出される中で開催されました。COP26での合意は大きな進歩でしたが、2030年までにGHG排出量を半減し、2050年までにネットゼロを達成するために、我々がすべきことは未だ山積しています。一人一人が目標達成に向けた役割を果たさなければなりません。
様々な課題がある中で、2021年にCDPが史上最多の情報開示を記録したことを大変嬉しく思っています。全世界の時価総額の64%以上を占める13,000社以上の企業、1000以上の都市・州・地域が、CDPを通じて環境情報の開示を行いました。これは、前年の2020年比で35%増、パリ協定が合意された2015年以降では141%増という結果になりました。

CDPは、2006年に日本での活動を開始しました。本年もまた、日本企業は気候変動対策への高い意欲を見せ、環境問題における素晴らしいリーダーシップを発揮されました。日本は2年連続でCDPのAリスト企業数が最も多い国に輝いています。さらに、CDPシティに関しては、情報開示を行った自治体数は世界一となり、2021年Aリストには3つの自治体、東京都、京都市、横浜市が選出され、その総人口は1900万人以上にもなります。Aリストを獲得された皆様は、ぜひこの評価を誇りに思っていただけたらと思います。2021年10月、アジアの主要市場における再エネ電力の状況について評価をした報告書、「REenergisingAsia」を公表しました。報告書によれば、2019年時点で日本は再エネ導入容量への投資がアジア主要市場の中で2番目に多く、再エネの潜在的な需要に関しては、日本が最大となっています。

日本では再生可能エネルギーの自家発電に関して企業が比較的良い成果を収めているのに対し、ネットメータリングや再エネ関連の税制優遇に関する政策が充実していないため、政策についてのランキングは総体的に低くなっています。今こそ、日本の政策立案者は、市場の障壁に対処するための政策を強化し、再生可能エネルギーの導入をさらに進める必要があります。
もう一つ、強調しておきたいことに、サプライチェーンエンゲージメントの重要性があります。気候関連の確かな移行計画を立てるには、SCOPE1と2の排出量に注目するだけでは、もはや不十分です。サプライチェーンからの排出量は、自社の操業からの排出量の平均11.4倍であり、一部の大企業ではSCOPE3の排出量が全体の排出量の99%を占めています。早急な対応が求められていることは明らかです。

心強いことに、大企業や公的機関は、自らのサプライチェーンに注目し、自社の戦略や目標に合わせながら、サプライヤーに透明性をよりいっそう求めています。2021年には、CDPサプライチェーンメンバーとして、総額5.5兆ドルの購買力を持つ200社以上の組織が、数千のサプライヤーに対してCDPを通じた情報開示を要請しました。皆さんもご存知のように、情報開示を行うことには多くのメリットがあります。

例えば、環境関連指標で高いスコアを獲得した企業は、財務面でも良い成果を上げているという示唆があります。CDPのAリストを基にしたSTOXX GlobalClimateChangeLeadersインデックスは過去8年間、参加指数よりも5.8%も高い平均リターンを記録しています。日本のコーポレートガバナンス・コードの改訂により、プライム市場の上場企業に対してTCFDに沿った気候関連情報の開示が義務づけられたことは、評価すべきことです。日本の銀行の中には、CDPスコアに基づいた企業のESGパフォーマンスに応じて金利を調整するサステナビリティ・リンク・ローンを提供しているところがあります。

このような市場の革新的アプローチは非常に望ましいものです。本日、CDPスコアを活用したサステナビリティ・リンク・ローンを実践している三井住友ファイナンシャルグループが参加してくださることを大変嬉しく思います。持続可能な社会の実現のためには、環境・社会・ガバナンス基準の原則およびメリットを、中小企業や地域社会にも受け入れてもらう必要があることも忘れてはなりません。

2021年は、非財務情報開示における「基準の設定」と「企業による情報開示」の双方において転機となりました。COP26において、IFRS財団はサステナビリティ関連財務報告の基準を発表し、金融市場における透明性とアカウンタビリティ向上を任務とする国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)を発足させました。この動きによって、CDPの活動がこれまで以上に主流となり、組織化が進むことになります。
ISSBは2022年に気候変動開示基準審議会(CDSB)と価値報告財団(VRF)を統合します。過去15年にわたりCDSBの事務局を務め、その発展を支援してきたCDPとしてCDSBのビジョンが現実のものになることを誇りに思います。

CDPは今後も、環境に関する情報開示とデータに関して我々が有する専門知識を提供し、ISSBのプロセスを支援して参ります。非財務情報開示における記録的な2021年という年に、CDPは2025年への新たな戦略「Accelerting the rate of change(変革を加速させる)」を発表しました。この戦略は、企業・都市・州。地域による、アカウンタビリティと透明性の高い気候変動対策の実行が急務であり、壊滅的な影響をもたらす気候変動と不可逆的な自然・生息地の損失という相互に関連する危機に対するCDPの対応を示しています。今後5年間、CDPは、より多くのステークホルダーと協同し、他の環境問題へと範囲を広げると共に、気候変動に関する目標・計画とそれらの実行のトラッキングに焦点を合わせます。新たな5か年の戦略において、CDPは、土地・海洋・生物多様性・レジリエンス・廃棄物・食料などの環境問題へと範囲を拡大します。

自然からのメッセージは必死かつ明確です。私たちは、地球の対応力と地球から採取・消費・生産できる量について従来の考え方を根本的に変えなければなりません。確固たる政策的行動はさることながら、企業経営の抜本的な見直しも必要です。気候変動・自然・経済・公衆衛生に関する世界的な危機に対し、私たちは協同しなければなりません。しかし、現時点で私たちは、大きく立ち遅れています。行動が早ければ早いほど、より多くの死者や混乱、不可逆的な変化を防げる可能性が高くなります。今日の強く大きな流れを見ると、2050年までに、あるいはそれより早く、経済の完全な脱炭素化は可能でしょう。世界中の全ての経済主体が、この機会を十分に活用し、支持すればの話ですが。気候変動に対するレジリエンスは経済と社会の最優先課題であるべきです。

今後5年間で、2050年ネットゼロの目標が達成できるか否かが決まります。国・地方自治体・企業・資本市場をはじめ経済に関わる全てのアクターが、野心的かつ早急に経済・社会全体への行動において団結することが必要です。CDPは、日本が引き続き、「ネットゼロ、ネイチャー・ポジティブで公正な世界への移行において、世界をリードされることに期待しています。

〈来賓挨拶〉 内閣総理大臣 岸田 文雄氏

今、人類は気候変動をはじめとする地球規模の課題に直面しています。これは新自由主義経済のもとで自然に負荷をかけ過ぎたことによる弊害の一つとして現れてきたものと考えます。自然と調和しながら歴史を紡いできた我々こそ、こうした外部不経済を是正する仕組みを組み込んだ新しい資本主義のモデルを構築し、地球の危機への対応を主導しなければなりません。

2050年、カーボンニュートラルの実現に向けて事業者それぞれが経営の在り方を国民一人ひとりが生活のスタイルを変えていくためにどうすればいいか、を考え実践することが必要です。そうした挑戦なくして経済社会全体の変革はできません。

こうした中、事業者が気候変動対応をはじめとする環境関連の情報を投資家等に開示する取り組みは、企業価値を向上させ、優れた企業に国内外から資金を呼び込み、さらなる対策の促進につなげるものです。気候変動の課題などにしっかり向き合いながら成長のエンジンに変える持続可能な環境経営に向けた皆様のさらなる挑戦にご期待申し上げ、応援していきたいと思っています。

〈来賓挨拶〉 環境省 環境大臣 山口 壯氏

我が国はすでに2050年カーボンニュートラルを宣言すると共に昨年秋には2030年の新たな削減目標である2013年度比46%削減、さらに50%の高みにむけて挑戦を続けていくことについて、その実現に向けた政府全体の対策を地球温暖化対策計画としてとりまとめたところです。

また11月にグラスゴーで開催されたCOP26は我が国の提案により市場メカニズムの実施指針等がまとまり、全体の合意に至るなど歴史的なCOPとなりました。今回のCOPの結果は世界全体が1.5℃達成に向け、脱炭素を実行する段階に入ったことを意味します。その実現のためには環境と経済の好循環をいかに実現できるか、が鍵となります。

世界に3000兆円とも4000兆円ともいわれるESGマネーを呼び込むためにも企業が一早く脱炭素経営に取り組んでいただくことで競争力につなげていくことが重要です。ESG金融にとって必要となるのは、企業によって開示される気候変動関連の情報です。

CDPスコアリングはこれまで企業による情報開示を先導する役割を果たしてこられたと理解しております。CDPのこうした活動は、TCFD、SBT、RE100とも連携することによって国際社会での役割も年々高まっていることと思います。環境省としても企業の皆様の積極的な取り組みをしっかり支援させていただきます。
CDPや本日ご参加の皆様といっしょに脱炭素社会に向けて、持続可能な金融やビジネスに向けた動きを加速していきたいと存じます。

〈来賓挨拶〉 東京都 東京都知事 小池 百合子氏

今年度も最高のA評価を受けた企業は日本が世界最多の74社とのことです。気候変動に対する戦略や対応、情報開示が進んでいるということは大変、心強く思います。東京都も先進的な自治体としてAリストの都市として選出されています。ちょうど1年前、「ゼロエミッション東京」の実現に向けて2030年までに温室効果ガスを50%削減するカーボンハーフを表明いたしました。そして昨年11月には産業界や家庭などの部門別CO2排出量やエネルギー削減の新たな目標水準を示しております。実現のための施策の基本フレームも明らかにいたしました。業務・産業部門に関しては世界に先駆けて導入した都市型キャップ&トレード制度を含め、現行の条例制度の強化・拡充について検討を開始しております。

家庭部門のCO2削減にはさらなる省エネ対策とそして再エネへの転換が必要です。新築の住宅などに太陽光発電設備の設置を義務づけるための検討を進めます。光の力を最大限生かしてまいりましょう。また気候変動対策は輝かしい未来への投資です。

昨年11月にはグリーンファイナンスの発展に向けた戦略的な取り組み「Tokyo Green Finance Initiative TGFI」を核としまして「国際金融都市東京構想」2.0を確定いたしました。環境改善の取り組みが市場で適正に評価され、投資を呼び込み、さらに取り組みが進展する好循環を生み出してまいります。TIME TO ACT、今こそ行動を加速する時です。企業の皆様をはじめ、様々なアクターの2030年までの力強い行動と連携、協同こそが世界を変えます。総力を結集して気候危機に立ち向かってまいりましょう。

〈CDP理事からのメッセージ〉
国連環境計画・金融イニシアティブ特別顧問 末吉 竹二郎氏

COP26の重要な成果の一つであり、1.5℃目標についてプラネタリーバウンダリーで有名なヨハン・ロックストローム ポツダム気候影響研究所所長によれば平均温度が2℃を超えると温暖化のドミノ倒しが始まる。ということだそうです。ですがその一方で気候科学の観点から見ると防衛ラインである1.5℃に抑えられる可能性はまだ残っているとのことですので、我々はその可能性を信じて、1.5℃達成を目指して、世界でネットゼロへの動きを一層、加速していかねばなりません。こうした中でCOP26の成果として、私が個人的に最も注目している点があります。それは次の3つです。

まずグラスゴー・ファイナンシャル・アライアンス・フォー・ネットゼロ(GFANZ)、2番目がファースト・ムーバーズ・コアリション(FMC)、そして3番目が若者たちの台頭です。

まずGFANZですがこれは金融のネットゼロを目指す45ヶ国からの450を超える金融機関の同盟です。日本の金融機関も参加しています。マーク・カーニー氏イギリス中銀総裁に率いられたGFANZは世界がネットゼロ実現に必要とする資金として向こう30年間で100兆ドルもの資金を提供する用意があるという壮大な約束をしました。次にFMCですがこれはアップル、アマゾン、ボーイング エアバス、あるいはバンクオブアメリカなど名だたる世界的企業が脱炭素製品などのイノベーションを促進するために前もって脱炭素製品の大量購入をコミットする同盟です。

これらのGFANZとFMCはそれぞれ別個の動きのように見えますがビジネスのネットゼロを目指すことでこれは協力しあえる同盟関係にあると思います。FMCはこれから仲間をさらに増やすそうですのでビジネスにおけるイノベーションが一段と加速されるのはまちがいのないことです。そしてこのジーファンスとFMCの成否を左右するのが次の時代を担う若者たちの動向なのではないでしょうか。政治であれ、社会生活であれ、なかんずくビジネスにおいては若者たちの支持を得られないものはけっしてこれからはサステナブルになれません。

こうした流れの先に見えるのはいかにして他社よりいち早く一段と高いレベルのビジネスのネットゼロを実現するかという新たな国際競争、すなわちグリーントランスフォーメーションに向けたGX競争です。これから時をへるごとに厳しさを増していくGX競争はこれからのビジネスの在り方を大きく変貌させていきます。そのGX競争にどうやって勝ち残っていくのか。日本のビジネスにとって大きな課題です。これはAリストの企業の皆さんに申し上げることではありませんが世界における日本の立ち位置を見ますと先を行く地域や国に大きく水をあげられています。COPのたびに化石賞をもらうようでは到底GX競争に勝てません。それどころかGX競争に参加することすらおぼつかないことになります。誤った道を歩み続けると最終的には追いこされ、取り残されるでしょう。これは先ほどのヨハン氏が日本に向けた警告です。

先日発表されました世界経済フォーラムのグローバルリスク報告書2022年版によりますと向こう10年間で懸念される最も厳しいリストのうち、TOP2は「気候行動の失敗」、そして「極端な異常気象」であります。次の10年は、世界が気候危機に打ち克ち、そして日本がGX競争に勝ち残るための勝負のときとなりました。今年11月にエジプトのシャルム・エル・シェイクで開催されるCOP27に向けて世界は1.5℃につながるための確固たるCO2削減に向けてNDCの見直しなどを含め、ネットゼロにむけて一段とギアをあげていくことはまちがいないでしょう。CDPも皆様方とともに日本がGX競争に勝てるよう頑張ってまいりたいと思います。

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