第1回 イオン東大里山ラボ キックオフシンポジウム 新たな里山チャレンジが拓く未来の地球~スマートエコアイランド戦略~

2022.3.28 掲載

東京大学と公益財団法人イオン環境財団は、地域の自然資源を活用し、生物多様性保全、脱炭素を達成しながら地域の経済再生を目指すために、新しい研究ユニットである「イオン東大里山ラボ」を設置。3月15日にオンライン開催された第一回「イオン東大里山ラボシンポジウム」では、同ラボが創設された意義や今後の里山に求められるもの、そして離島における様々な里山に係る新しい活動について議論を行った。

現代の里山と人間社会との
より良い関係を提案されるプロジェクト

主催者挨拶では東京大学副学長・社会連携本部副本部長大学院農学生命科学研究科教授の丹下健氏が、人間社会が生態系の一部であるという意識をもち、人と生態系のより良い関係を形づくることがカーボンニュートラルの実現において不可欠であることを強調。その実践を通じて現代の里山と人間社会とのより良い関係を提案するこのプロジェクトは非常に意義深く、より多くの成果が生まれることを期待していると話した。
イオン環境財団副理事長/イオン株式会社 取締役会議長兼代表執行役会長 岡田元也氏は、当財団の歴史を振り返りながら、美しい地球を次世代に引き継いでいくためにこれまで里山の保全を重要目標と定めてきたことに言及。日本各地でこれまで脈々と受け継がれてきた里山こそ今、求められている素晴らしいエコシステムであると述べた。そして今回、イオン東大里山ラボを設立することで里山の再生と、再生された里山に新しい価値を創造する日本を世界へ発信してまいりたいと抱負を語った。また、イオンの環境活動の最大の特徴は各地域で大勢のお客さまやいろいろなパートナーと一緒に取り組むことにあることを力説。その総力をあげて里山と人との望ましい共生関係を各地域に構築して取り戻し、地域密着型のイオンらしい里山を目指していきたいと結んだ。

  • 東京大学副学長・社会連携本部副本部長大学院農学生命科学研究科教授丹下  健 氏東京大学副学長・社会連携本部副本部長
    大学院農学生命科学研究科教授
    丹下 健 氏
  • イオン環境財団副理事長イオン株式会社 取締役会議長兼代表執行役会長岡田元也 氏イオン環境財団副理事長
    イオン株式会社 取締役会議長兼代表執行役会長
    岡田元也 氏

人と自然が共生する持続可能な地域づくり

基調講演では人と自然が共生する持続可能な地域づくり――イオン東大里山ラボへの期待――と題して東京大学未来ビジョン研究センター特任教授/地球環境戦略研究機関(IGES)理事長 武内和彦氏が概要を以下のように話した。

CO2の排出量の削減や生物多様性の回復は急務となっている。そこで求められるのが、新たな循環型の「自然共生社会」の構築だ。その実践のために10年前から進められてきたのが国連大学と環境省が一緒になって、世界の様々なステークホルダーと推進してきたSATOYAMAイニシアティブとなる。そこでは、里山の伝統的な知恵と科学的な知識を融合した、多様な主体が参加する新しい開かれたコモンズを創造していく国際的な取り組みが進められてきた。また第5次環境基本計画を策定する中で、経済と社会と環境とを統合的に向上させる新しい圏域づくり=地域循環共生圏が提唱され、今それを世界に発信しようとしている。これらにある考え方をイオン東大里山ラボではぜひ具体的に議論していただきたいと考えている。
イオン東大里山ラボには4つの柱がある。それは①エネルギー、②人材、③食料、④健康だ。これらが有機的な関係を持ち、都市と里山の連携が図られ、自然共生社会の実現にイオン東大里山ラボが貢献できることを心より祈念している。

東京大学未来ビジョン研究センター特任教授 地球環境戦略研究機関(IGES)理事長 武内和彦 氏東京大学未来ビジョン研究センター特任教授
地球環境戦略研究機関(IGES)理事長
武内和彦 氏

日本全体の自然共生社会の実現につなげていく

イオン東大里山ラボについて東京大学未来ビジョン研究センター副センター長/教授 福士謙介氏は、里山から変革を起こす挑戦と題して以下のように話した。

イオン環境財団と東大未来ビジョン研究センターが共同して設立したイオン東大里山ラボは、里山から社会変革をどのように成し遂げていくか、という研究をこれから企画し、実行していく。そこではエネルギー、食料基盤、人材・新産業・健康の4つの柱を立て、研究と活動を行い、最終的には自然と健全に共生する人間社会の創造の具現化を目指していく。エネルギーは多様な再生可能エネルギーの活用による自立的なゼロカーボンエネルギー基盤の構築、食料基盤では、持続的食料基盤と美しい里山ランドスケープの創造をテーマとしていく。人材・新産業では新たな産業の創造とその担い手の確保、地域に住み続ける暮らしの確保=雇用を実現していきたい。健康では生涯健康で安全なくらしと地域の産業と文化を支える生きがいと活力の創造を図っていく。そして里山の都市との連携についても研究し、日本全体の自然共生社会の実現につなげていきたい。

東京大学未来ビジョン研究センター副センター長/教授 福士謙介 氏東京大学未来ビジョン研究センター副センター長/教授
福士謙介 氏

5年間で目に見える形で社会に世界に提案・発信

次にイオン環境財団専務理事兼事務局長 山本百合子氏は、イオン東大里山ラボが目指すものについて以下のように語った。

イオン東大里山ラボが目指すものは3つのポイントになる。1つは、自然と調和した人間社会の構築。これは自然の恵みがどのように社会的な原理で成り立っているのか、すなわち里山サイエンスを理解し、人間の活動がそれを十分に活用し、サステナブルな関係=ローカルコモンズを考えた共生関係を目指す。
2つめは生き生きとした生活を送れる地域社会の構築となる。生涯、健康で楽しく生きがいのある仕事に従事し、経済的格差を感じない地域生活を目指していきたい。ここでいう仕事とは勉学・ボランティアや介護、育児・家事等も含む多様な社会に対する活動も意味する。
最後は、先駆的なアイデアの地域における実践を提案となる。イオン環境材財団の特徴として、地域の皆さまと共に環境活動を実践するということである。それを今回、東京大学の学術的な活動と連携させるという狙いがここにある。大学と民間の財団が一体となり、様々な新しいアイデアが次々と生まれ、地域の方といっしょにこれを実践していくようなプラットフォームの形成を目指したい。そして、これら3つの目標を今後5年間で目に見える形で社会に世界に提案・発信していきたい。

イオン環境財団専務理事兼事務局長 山本百合子氏イオン環境財団専務理事兼事務局長
山本百合子 氏

離島における様々な里山に係る新しい活動

今回のシンポジウムではパネルディスカッションで離島における様々な里山に係る新しい活動の報告が行われ、佐渡市農業政策課課長 中川克典氏、西之表市農林水産課課長 岩下栄一氏、種子島森林組合代表理事組合長 前田徳弘氏が登壇した。
佐渡市農業政策課課長中川克典氏は、「トキと共生する佐渡の里山 これまでの取り組みと新たな挑戦」をテーマに日本ではじめて世界農業遺産に選ばれたトキと共生する佐渡の里山の取り組みと今後新たに挑戦したい事柄について話した。同氏は、佐渡が世界農業遺産に選ばれる大きなきっかけが、トキの野生復帰を目指し、自然にやさしい様々な農法を用いた朱鷺認証米であったことを強調。また既に島内の保育園給食における無農薬・無化学肥料を使った農産物の提供や首都圏の小学校給食に朱鷺認証米を届けている事例を挙げ、将来の佐渡島、日本を支えていく子どもたちに佐渡島で作られた安心・安全な食材を届けていくことにチャレンジしていきたいと語った。

  • 佐渡市農業政策課課長 中川克典 氏佐渡市農業政策課課長 中川克典 氏
  • 西之表市農林水産課課長 岩下栄一 氏西之表市農林水産課課長 岩下栄一 氏
  • 種子島森林組合代表理事組合長 前田徳弘 氏種子島森林組合代表理事組合長
    前田徳弘 氏

里山の再生に凝縮するグローカルな視点

Vaneでは以前より、地域循環共生圏の特集を組み、奄美大島の海を守る現場スタッフにインタビューするなどサステナブルな社会の鍵を握る地域の在り方に着目してきた。人類が大きな岐路に立つ今、必要なのは、世界に目を向けると同時に地域に光をあてていくグローカルな思考だろう。その意味で里山の再生を通じて世界の地球環境の持続性への貢献を目指すこのプロジェクトの使命は大変に大きいと感じ、今後も取材を続けていきたい。