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特集 気候非常事態宣言の国際動向 ーカーボン・ニュートラル行動計画をどう作るかー 東京大学名誉教授 山本 良一氏

 11月28日 特定非営利活動法人 プラスチックフリージャパンの主催により藤沢市内で開催された気候危機セミナーにおいて気候危機の世界的権威であり、東京大学名誉教授の山本良一氏が「気候非常事態宣言の国際動向~カーボン・ニュートラル行動計画をどう作るか~」と題して講演。ここではその要旨を紹介する。

世界の主要都市が「気候非常事態宣言」を可決

 先日、菅総理は所信表明演説で2050年までにカーボン・ニュートラルを達成することを正式に表明しました。これは素晴らしい決断だと思いますが、しかし、我々の最終目標は放出量と吸収量をニュートラルにしたその先にあります。つまり吸収量をより大きくする必要があります。
 産業革命以降、空気中には一兆t以上のCO2が蓄積されていますから、これを取り除かなければならない。空気中のCO2濃度を落とさなければ、気候の最終的な安定は得られません。ですからカーボン・ニュートラルの目標はいかに大変であっても必ず達成しなければなりません。
 我々は1年以上前から地球の環境と気候が非常事態にあり、全力を挙げて解決していく運動を起こし、2020年11月18日に「気候非常事態ネットワーク」を設立させていただきました。翌々日に劇的な展開が待っており、参議院・衆議院の本会議において全会一致で国会として「気候非常事態宣言」を可決したわけです。2019年の5月にはイギリスが、次にアイルランド、ポルトガル、アルゼンチン、フランス、イタリアと続き12の国が「気候非常事態宣言」を可決。日本は13番目の国になったわけです。そして皆さんがすぐ名前を思い浮かべるような世界の都市のほとんどが宣言をしております。

日本に求められる一刻も早い大転換

 今後日本は2050年と言わず、一刻も早くカーボン・ニュートラルを達成していくための大転換が求められています。いかに我々が危機に直面しているか。そして、いかに我々が危機に立ち向かうべきか。世界各地でその運動が活発化しています。
 しかし、現状はどうでしょうか。温暖化対策は30年以上も前から行っています。私自身も環境に良いものを社会に普及させていくにはイノベーションとグリーン購入であると主張してまいりましたがほとんど実効性が上がっていませんでした。
 なぜなら問題の解決時期を100年後に設定していたからです。それは根本的に誤りであり、破局や危機は間近に来ていたのです。15年後に大変な破局が人類を待ち受けています。

講演中の山本良一氏

講演中の山本良一氏

4℃の上昇は文明の崩壊を意味する

 サイエンスの進歩によって地球の表面で何が起きているか、急速に把握でき、その結果をインターネットによって迅速に共有できるようになりました。
 最新の研究では2035年頃より、アマゾンの熱帯雨林ではCO2を吸収する量よりも放出する方が多くなるとの論文が発表されております。他にもいくつか事例がありますが、あと15年ほどで大変な破局が我々を待ち受け、50年経てば全世界の35億人が居住環境を追われ、難民化するといったことも明らかになっています。
 気候が安定していた時期に農業など人類の文明が発展し産業革命が起こり、化石燃料を使うことで地球の温度は1℃上昇しました。そして2℃に上がることを国際社会ではパリ協定等で抑制しようとしています。放置して4℃まで上がると生き延びられるのは10億人ほどだとされています。世界の人口は今世紀中に100億人に達すると言われていますので、もしも4℃になれば90億人が亡くなることになります。したがって4℃の上昇は文明の崩壊であると考えています。

“氷河のお葬式”が意味するもの

 2019年7月26日にパリは中東並みの43℃、前月にはフランスの一部では46℃を記録しました。イギリスやドイツでも同様です。9月にはハリケーンドリアンや台風が深刻な爪痕を残しました。台風19号では日本の各地で河川や堤防が決壊し、多数の犠牲者を出しました。実はこのとき、東京も危機にひんし、荒川が最大水位に達した時刻と東京湾の満潮時刻が3時間ずれていたために決壊が免れたと分析されています。またグリーンランドや南極大陸の氷も溶けはじめています。グリーンランドは1992年には年間340億tの氷が失われていたわけですが、2016年にはその7倍の速さとなる年間2470億tが消失したことが報告されています。
 北極や南極の海の海氷面積は2016年に急変しています。このままいけば北極の海氷は2035年になれば夏場において消失するだろうとの予測もあります。
 アイスランドでは2019年8月に気候変動で失われた氷河のお葬式が行われました。「未来への手紙」という銘板が設置され、そこには[2019年CO2の濃度415ppm]と書かれています。これを100年後の世代が見て何と思うでしょうか。人類が賢く、全力を挙げCO2濃度を減らしていけば、私たちのその行動を賢明だったと評価するでしょう。逆に増えていれば、浅ましく自己本位で協調行動が取れなかったことを非難するはずです。人類は賢いのか。自己本位なのか。そのどちらに進むのかという選択が今、突きつけられています。

アイスランドの氷河の消失で設置、「未来への手紙」の銘板(2019年8月)

アイスランドの氷河の消失で設置、「未来への手紙」の銘板(2019年8月)

2070年には35億人の環境難民が生まれる

 一番深刻なのは熱波です。熱波には空気の熱波と海の熱波があります。海の熱波は魚に、空気の熱波は人に影響を及ぼします。21世紀末までに熱波による年間の死者数はヨーロッパでは50倍に増えると考えられています。南アジアでは18億人の人々が暮らしていますが、このまま温暖化の進行を食い止めることができなければ、その3分の1に相当する5億人が生存の限界に達するであろうと考えられています。
 熱波はオーストラリアやシベリア北極圏でも森林火災を引き起こしました。2020年6月20日、シベリアのベルホヤンスクでは過去の最高気温20℃を18℃も上回り、永久凍土が溶け、メタンガスの噴出による巨大な穴が生まれました。2018年9月14日には危険な熱帯低気圧が9個同時に世界で発生しています。
 日本では埼玉県熊谷市で2018年7月23日41.1℃という最高気温を記録しました。気象庁の気象研究所は、これについて「地球温暖化の影響がなければこういった事態にはならない」と結論づけています。2020年の5月アメリカ科学アカデミーに掲載された論文では「世界の平均気温が1℃上がると10億人が別の場所に移住を余儀なくされるか、極端な猛暑に順応せざるをえなくなる」と発表しています。1℃上昇で10億人です。2070年には35億人が熱波によって居住不可能、つまり環境難民になると予測しています。

選択すべきは現実的楽観主義

 海底にたまった泥を深く分析すると過去6600万年分の地球の表面温度の変化が掴めます。地球は空気中の温室効果ガスが様々な理由で吸収され、灼熱の状態から6000万年頃からは寒冷化に向かっていたことを知ることができます。しかし、化石燃料を大量に使ったがためにCO2を空気中に大量に排出しました。これをあと300年続けますと再び灼熱状態の地球に戻ることが研究でわかっています。6000年前は地球上にCO2という温室効果ガスが充満し、南極も北極もなく、海面水位も今より高かったわけです。今、人類が行っていることはそこに戻ることを意味しています。
 ではこれから何をすべきか。3つのアプローチが考えられます。1つはこれまで通りの経済・技術開発至上主義でうまくいくと捉える楽観主義、2つめは危機を認識して急いで行動していく現実的楽観主義、3つめは既に手遅れで社会崩壊が始まっており、適応に対策の中心をシフトすべきという深い適応策です。
当然、我々が選ぶべきは2つめの現実的楽観主義になります。そこではEmergency(非常事態、緊急事態)とMobilization(社会の総力を挙げて)がキーワードになります。
 集団が危機意識を共有し、団結力を高め、総動員体制で危機を突破していく現実的楽観主義で進むべきなのです。

毎日、広島型原爆の40万発から72万発分のエネルギーが蓄積

 気候と気象はちがいます。気象は毎日変化します。気候は長時間平均値です。人でいえばその日、その時の気分が気象。そしてその人の気分のベースになる性格が気候にあたります。
 最近の熱波や豪雨というほとんどの異常気象はまちがいなく、人間起源による気候変動がなければ起こりえなかったと多くの科学者が指摘しています。
 次にお話しするのは、地球のエネルギーのインバランスについてです。インバランスとはバランスを崩している状態です。地球が得るエネルギーと放出するエネルギーのバランスが取れていれば地球の気候は安定します。しかし今、それが崩れ、入射するエネルギーが増えています。それを計算すると地球の表面には毎日、広島型原爆の40万発から72万発分の爆発エネルギーが蓄積し、その大半9割は海洋に吸収されていることになります。海はこれまで考えられていたより多くの熱を吸収し、気候変動に大きな影響を与えています。そのため熱波、特に海洋熱波が起きやすくなっていると考えられます。

講演会の様子

講演会の様子

近づきつつあるティッピングポイント=臨界点

 2℃を突破するとサンゴ礁が絶滅します。夏の北極海氷やアルプスの氷河、グリーンランドの氷床が溶けてしまいます。つまりティッピングポイント=臨界点を超えてしまうわけです。それを超えさせないために産業革命前と比べてその上昇を2℃までに抑える。それが2015年に締結された国際条約であるパリ協定の基本です。今、既に多くのティッピングポイントは超えつつあります。このティッピングポイントが連鎖し、玉突き衝突のような現象を起こし、結果的に2℃以下に抑えられたとしても4℃まで上昇したことと同じような状態になるという可能性も指摘されています。英エクセター大学の気候科学者ティム・レントン氏は、複数の地球システムが連鎖的に「臨界点」を超えることで、地球全体が後戻りできなくなるとの論説を発表しています。
 そういった警告に耳を傾けなければいけないときがきています。
 2019年3月1日、316名の科学者が署名し、気候の非常事態を宣言し、動員計画の立案実施を都道府県や市長村の首長に求める請願書を発表しました。
 2019年11月6日、世界の153か国の科学者1万1000人以上が連名で気候の非常事態を警告しました。日本でも9月19日に日本学術会議の山極会長が「地球温暖化への取り組みに関する緊急メッセージ」を発表しています。

若者の行動が気候非常事態宣言運動を加速

 2018年8月20日スウェーデン国会前で一人の15歳の少女がストライキを始めました。グレタ・トゥーンベリさんです。1週間後に政党の党首が彼女を訪ねて意見を聞きました。
 日本で行っていればどうだったでしょうか。SNSなどのメディアの力によって、それは一斉に欧米先進国に広がり、各地で若者のデモが起こりました。無数のグレタさんが全世界に立ち上がったのです。
 オランダでは10歳の女の子が市役所前でストライキを起こしました。全世界でこういった現象が起こり、2019年の3月15日には全世界で150万人、9月20日には全世界で400万人の若者がデモを実施しました。世界の若者がここまで抗議の声を上げるということは人類の歴史の中でも経験がありません。ニュージーランドでは17万人の子どもが気候ストライキに参加、これは人口の3.5%に相当します。9月27日にはモントリオールで空前絶後のストライキが行われ、50万人が参加。グレタ・トゥーンベリさんがそこに駆け付け、スピーチしました。彼女はモントリオールの市長からその名誉を称える市の鍵を受け取っています。またローマ教皇は彼女と会見し、「続けなさい。前へ進みなさい。神のご加護がありますように」と激励しています。
 世界の科学者が続々とこれらの気候ストライキを支持する声明を発表しました。そしてグレタ・トゥーンベリさんをはじめ、若者たちのデモでは「科学者の声に耳を傾けよ」と訴えています。

「気候非常事態宣言」というボタンを押す時

 気候非常事態宣言運動は2016年12月にオーストラリアのデアビン市から始まりました。その後、2017、2018年は全世界の25の自治体が宣言することに留まっていましたが、2019年に若者が一斉に運動を起こすことで爆発的に拡大し、7月だけで250の自治体が宣言しています。世界の主要都市や議会も宣言しました。自治体だけではなく、大学や医師会、病院、文化芸術団体など様々な組織が宣言し、カーボン・ニュートラルのアクションプランを創り出しています。
 2019年9月23日にはグレタ・トゥーンベリさんが国連気候行動サミットで「How dare you(よくもそんなことができますね)」を4回繰り返すスピーチを行いました。破局をもうすぐ迎えることを知りながら産業経済活動を継続して全地球の表面を破壊する大人に対する非難です。
 日本では2019年9月25日に長崎県壱岐市、10月4日には神奈川県鎌倉市が気候非常事態宣言の声明を行いました。気候非常事態宣言の表明は、まさに非常事態という叫びを伝えるボタンを押す行為です。今、そのときが来ています。全員で結束し、そのボタンを押しましょう。そしてカーボン・ニュートラルを実現するための行動計画を立て、アクションを起こしていきましょう。