月刊 Vane Online 環境・CSR情報誌「ヴェイン」公式サイト
未曾有の有事においても「お客さま第一」を貫く

 2019年9月には台風15号が、10月には台風19号が立て続けに日本を直撃し、各地に深い爪痕を残した。また2020年夏に発生した「令和2年7月豪雨」も九州、中部はじめ、広範な地域において甚大な被害を与えたことは記憶に新しい。さらに全世界で6,897万人を超える感染者を出している新型コロナウイルス感染症は収束の気配を見せない。また南海トラフ地震といった巨大地震はいつ起きてもおかしくない状況にある。
 こういった有事に迅速な対応が求められるのが食料や日用品などの生活必需品を提供する商業施設となるだろう。ここではグループ企業の防災責任を担うイオン株式会社 総務部長入江道之氏から同社の有事に対する取り組みについてオンラインで伺った。

基本理念を中心に据えた行動

――有事に対して迅速に対応していくためにイオンが重要視していることは何でしょうか。

入江:一刻一秒を争う時だからこそ、私たちは基本理念にある「お客さま第一」をしっかりと行動の中心に置き、それがブレないように心掛けています。
 今回のコロナ禍やここ数年の台風などもそうですが、イオンの基本姿勢は、従業員の十分な安全が確保できる限り、店舗の営業を続けるというスタンスにあります。それを大前提として地域のくらしを守るために営業を継続するためには何をすべきか、災害に見舞われて一時的に閉店する場合はどうすればいち早く営業を再開できるかを皆が自主的に考えられる集団がイオンです。そして、それは「お客さまのために」という「理念」がしっかりと社員の心に根付いているから行動が起こせるのだと考えています。
 特に2011年の東日本大震災での経験を肌身で覚えている社員がたくさんいます。このことが組織の記憶として残り、今日のイオンの防災取り組みの原点になっていると思います。たとえば宮城県の気仙沼店では、3月11日に津波が押し寄せたことでまったく営業ができない状態でしたが、4月1日には屋上駐車場に売場を設置し、「青空市場」として限定的に営業を再開しました。そのときのお客様と従業員がともに再開店を喜びあった姿を今も忘れることはできません。
 イオンの店舗は、その地域に欠かすことのできない生活インフラとして安全、安心を提供する場としての認知も得られるようになり、これからもお客さまとともに取り組んでいければと考えています。

イオン本社での防災訓練の様子

イオン本社での防災訓練の様子

各店舗が外部パートナーと連携した防災拠点に

――東日本大震災では首都圏の交通網もストップし、帰宅困難者が出ました。
今後帰宅困難者対策ではどのようなことが考えられますか。

入江:東日本大震災の際に鉄道が麻痺していたため、私も徒歩で帰ろうと決め、千葉市にあるイオン本社から近くの国道14号に出たのですが、そこでは東京方面から疲れきって歩いて帰ってくる大勢の会社員の姿を見ました。そのときに幹線道路沿いにある店舗が帰宅困難者を支援できる施設であったなら、大いにお役だちできただろうと思います。イオンの店舗では、帰宅困難者が多数発生することが想定されている店舗・事業所では、対策マニュアルを整備し、①水の提供、②トイレの提供、③情報の提供、④休憩場所の提供を実施しています。また、グループ企業の「ミニストップ」では、9都県市の協定に基づく災害時帰宅支援ステーションの協力をしており、定期的に訓練を実施するなど災害発生の際、対応できる体制づくりなども進めています。


――2020年度までに全国の防災拠点を100箇所設けることを目標とされていますが、100を目標にした理由は何でしょうか。また達成状況を教えてください。

入江:イオンは、2016年3月にグループの商業施設の災害時防災拠点化を2020年までに100店舗へ拡大する計画を盛り込みました。そして災害発生時には電力会社などのエネルギー会社に加えて、地域行政や病院など各地域に根差した外部パートナーと連携しています。防災拠点目標の達成状況としては58店舗まで進みました。エリアの状況やお店の規模、また断層の有無などを考慮し、適した発電設備も加えながら、今後は100にこだわらず、150店舗規模まで拡大していきたいと考えています。

2019年9月の台風時に防災拠点となったイオンモール木更津

2019年9月の台風時に防災拠点となったイオンモール木更津

意識の転換が求められた新型コロナウイルス感染症対策

――コロナ禍においてはどのような対応を行ってきましたか。

入江:世界がこのようなパンデミックになっておらず、中国の武漢での感染が懸念されていた1月後半には、イオンはすでに対策本部を起ち上げていました。その日その日の現地の状況を把握し、今後の対策について協議をしていました。3月に入り、いよいよ日本国内でその流行が顕著になった頃には、テレビ会議ではありますが、具体的な対策を立て毎日その進捗状況を確認し合いました。今はある程度、感染状況がつかめていますが、当時はよくわからず有効だと思ったことはすぐに実行しました。
 そして、専門家から科学的根拠に基づく助言をいただき、最新の知見に基づく防疫対策を、お客さまのご協力を得ながら、実施してきました。
 そういった中で6月には新型コロナウイルス感染拡大防止に向け、3名の防疫の専門家に監修いただいた防疫対策の基準などを示した「イオン新型コロナウイルス防疫プロトコル」を制定し、このプロトコルは11月に改訂もいたしました。


――新型コロナウイルスの対策で重点を置いたのはどのようなところでしょうか。

入江:人との距離をいかにして保つか。これを特にポイントとしました。従来なら、お店に大勢のお客さまに来ていただくことが理想ですし、集客をどう増やすか、ということは戦略の重要テーマでした。しかし、コロナ禍では逆です。そこには社員の意識の転換が必要でしたし、お客さまにもご協力をお願いしました。そのために店内では入場制限を行う場合があることやなるべく少人数での来店をポスターなどでお伝えしたのです。
 11月に本州・四国の「イオン」「イオンスタイル」約400店舗では「ブラックフライデーセール」を開催していますが、混雑が予想される売り場では入場制限や順路を明示しました。例えば、スーツの半額セールは、毎年のように売り場が混雑しますが、今回は入場整理券を配布し売場への入場を一旦お待ちいただくなど、お客さま同士の接触を防ぐようにしました。

混雑が予想される売り場では入場制限や順路を明示

混雑が予想される売り場では入場制限や順路を明示

常に進化していく事業継続マネジメント

――有事に対して各企業はBCP(事業継続計画)を策定しています。
それに対してイオンではBCM(事業継続マネジメント)をスタートさせています。
この違いについて教えてください。

入江:通常のBCPはリスクを想定した事業継続の計画であるのに対し、BCMは実際の災害はもちろん、総合防災訓練で計画内容を実行し、その内容を確認、さらに修正や改善を加えて新たに計画を立案するというPDCAのマネジメントサイクルを回していくところにあります。わかりやすく言えば有事への対応を柔軟に進化させることができるのがBCMです。
 例えば台風による水害対策もどのような状況になれば対策本部を起ち上げるのか、今まで基準がなかったのですが、2019年の台風を経験後に「大雨で24時間300ミリ以上の降雨量があるという予報が出た場合」という基準を設け運用を始めました。ただしこの基準も常に見直す必要があるかを検討しなければならないと考えています。
 今や気候災害を含め、有事は未曽有の被害を及ぼす可能性があります。そのために事業継続においても常に進化できる体制で備えていかなければならないと痛感していますし、「お客さま第一」という理念に合った行動をするよう心がけています。



――想定を超える有事に対しての立ち位置に理念を置くことで、どのような状況であっても「イオンだからできる」行動が生まれると理解しました。
本日はありがとうございました。