ソーラシェアリングと農業の未来を築く実践者 第1回

2022.5.20 掲載

ここ最近、脱炭素社会、SDGsの視点から営農型太陽光発電(以降、ソーラーシェアリングと称する)への期待が高まりつつある。筆者は神奈川県小田原市を中心とするあしがら地域においてソーラーシェアリングを中軸に据えた地方創生を展開している。そこで実践家の立場から、ソーラーシェアリングの意義、展望、課題などについてその思う所を書きたいと思う。

筆者(小山田 大和)

筆者(小山田 大和)

ソーラーシェアリングとは、農地の上に発電所を作る仕組みである。農業を行いながら、太陽光発電を行うという意味で、野立ての太陽光発電とは太陽光ながら性質を異にする。この仕組みを行うには、発電所を設置しようとする自治体の農業委員会(正確には事務局)に出向き、必要書類を添付して申請をすることが求められる。当該自治体の農業委員会の審議を経て、意見書という形で都道府県に送られ、都道府県知事の許可・認可を受けて設置が認められるという仕組みになっている。

ソーラーシェアリングを検討する際に今もって非常に多く寄せられる質問に「パネルの下で作物が育つのか?」という点がある。論より証拠。やってみればわかる事ではあるが、農業委員会を通すに際しても、パネルの下で作物を育てることに対して、その収量が落ちないことを証明する必要がある。申請をしたことがない人は、その部分でだいぶ苦戦を強いるようだ。これは理科の授業で習うことであるそうだが(私はやった記憶がないのだが(笑))、植物には各々、光飽和点、というものが存在し、その光以上にいくら光を与えても、生育には影響がないのである。

太陽光パネル下の水田の様子

太陽光パネル下の水田の様子

私が栽培する、みかん、お米、サツマイモは光飽和点がいずれも40KLXである。日本の太平洋側の平均的な場所の照度は大体100KLXから150KLXといわれているので、太陽光パネルで遮る遮光率は60%であっても生育には影響がない、ということになる。一般的にソーラーシェアリングの遮光率は30%から40%台なので、殆どの作物が生育に影響がない事になる。最も、それぞれの作物で光飽和点が違うとは先述した通りなので、ソーラーシェアリングの下で、どのようなものを植えるのか?という事は、事業に先立ち考慮し、その作物の光飽和点を調べたうえで、設計に入ることを強くおすすめする。ちなみに、私たちが最初に作った小田原かなごて(かなごてとは、かな=神奈川県、ごて=御殿場線をさし、神奈川県御殿場線沿線の地域のことをそのように呼ぶ)下曽我ソーラーシェアリングでは、当初、サツマイモを作付けしていたが、水はけが悪い土壌で、生育が思うようにいかなかったため、サツマイモから里芋に作付けを変更した。そうしたことも割に柔軟に小田原市の農業委員会は対応してくれている。

ソーラーシェアリングは新しくできた仕組みであるため、各々の農業委員会によって対応が異なる、という事をよく聞く。ソーラーシェアリングは、一時転用、とか、一部転用とか言われるし、事実、そういう側面がある仕組みなので、そうした名前は間違っていない。一時とは、あくまでも、太陽光発電を農地の上で行うのは一時的に行う、という事で、その一事が終われば、再び、整地して戻すことをさす。一部とは、ソーラーシェアリングとは農地転用手続を行うわけだが、農地転用=農転(以降、農転と称する)部分は支柱の面積の総和だけであり、その部分だけ転用したとみなす、という事なのである。考えてみれば、太陽光パネルの下では、農作物を作るのだから、その部分は農地のまま、であるはずなので、農転は不要である。ただし、太陽光パネルを支えている支柱部分は、これは、農地として利用するわけではないので、便宜的に農転をする、一時的に、という事なのである。そういう実務的な運用を見ると、ソーラーシェアリングという仕組みは、農地は農地として活用すべきである、という農地法の法益(立法の目的)と、発電設備を農地の上に設置することをどのように整合性を取り、融合せさせるか?を考えた極めて法政策的、テクニカルな法技術ともいえる仕組みであるように筆者は行政書士でもあるため思えてならない。

苗植えの様子

苗植えの様子

農地転用期間はソーラーシェアリングの場合は、原則3年である。この仕組みがソーラーシェアリングの普及を阻害している一つの要因と言われている部分でもある。すなわち、3年の間に、収量が下がらないと、申請者はいうけれど、もし、下がったら2割減までは認めるけれど、2割以上、収量が下がったら、再許可は認めず、作った発電所は全て撤去しなければならない、というのが、基本なのである。という事は、3年に一回事業計画の見直しがあり、その事業計画の見直しで、再度許可が得られなければ、売電収入は無くなってしまう、という事になる。これでは、例えば、当該発電所の建設資金を金融機関からの融資でまかなった場合、その債権は焦げ付く、つまり、回収不能、不良債権化するリスクがある。金融機関がソーラーシェアリングに対して融資を実行しにくい環境がここに潜んでいるのである。

そうしたことを踏まえて、一定の要件、例えば、ソーラーシェアリングを実施する人が認定農家である場合、とか、場所が耕作放棄地の認定を受けている場所であるという場合には3年を10年にするなどの措置が講ぜられることになった。これはこれで一定の前進ではある。事実、最近のソーラーシェアリングへの資金供与の条件として10年の案件である事、という条件が付されていることも多くなってきている。だが、一方では10年に一回は事業計画の見直しがある、という、金融機関にとってのリスクがあるわけで、そういう事になると、例えば10年間の融資期間にしてくれ、というような条件を付けられてしまう事が考えられ、そうなると、資金供与を受ける立場の我々は、その返済がきつくなってしまう。つまり、売電収入のすべてが返済に充てられ、多少の無理をして投資をするメリットを短期的には見いだせず、投資意欲がわかない、という事になりかねない、という問題をはらんでいる。

こうした金融機関との融資の困難さは拙著『食エネ自給のまちづくり』(田園都市出版社)に詳しく、是非、ご高覧賜りたい。このお金にまつわる話は、ソーラーシェアリングを飛躍的に広げてくために重要な課題であり論点であるため、今後、より細かな発電所建設の時の苦労話などを紹介する過程で記載していきたいと考えている。

現在、私は合同会社小田原かなごてファームを主宰し、ソーラーシェアリングを4基、そのソーラーシェアリングの電気を既存の送電線を介して使用する、日本で初めての仕組みであったオフサイトPPA(パワーパーチャスアグリメント)の供給先としての農業関連施設、農家カフェSIESTAなる飲食店を1店舗経営している。それぞれの施設の建設にドラマがあり、ソーラーシェアリングをこれから考えられている人にとっては、そこでの実践は参考となることも多いだろうと思っている。次回からは、その個々の発電所の建設の物語を見ていきたいと思うが、今号の最後になぜ、今、ソーラーシェアリングが必要なのか?ということにふれておきたい。

脱炭素社会の肝は発電部門におけるCO2を削減することである。そのためには再生可能エネルギーの比率を高めなければならない。現状のエネルギー計画の数字でもまだまだ不十分である。わが国で事業化ベースで導入しやすい再生可能エネルギーといえば、やはり、太陽光発電のポテンシャルは無視できない。それは固定価格買い取り制度(FIT制度、以降、こう称する)が終わっても同様である。例えば社屋や家屋の屋根はまだまだ活用が十分とは言えない。

FIT制度が始まって10年。太陽光発電は飛躍的に伸びたが、そんな状況にあっても、ほとんど活用されなかった土地が農地である。農地は耕作地が400万ha、耕作放棄地は40万haあるといわれている。耕作地の1/3を活用すれば、日本のすべての電気の消費量を生産できるという筆者の試算もある。この試算は風力やその他の再生可能エネルギーは考慮していないし、先ほどの屋根も考慮していないので、実際、耕作地の1/3を使う必要もない。ソーラーシェアリングは何かと規制の多い農地にあって、唯一、すべての農地で導入可能な仕組みである。野だてのソーラーは出来なくても、農業と再生可能エネルギーを組み合わせるソーラーシェアリングであれば、導入が図れる。もちろん、送電線の問題など、物理的には出来ても、実質的には難しいという課題もある。しかし、その、導入を阻む壁をこそ、政治も含めて、大胆に規制改革をし、システムを改革しなければならない。そうしたインフラが整ったとき、実はわが国発の仕組みであるソーラーシェアリングはおひざ元で飛躍的に導入が促進されるのである。