森のサステナブルを人との関わりで捉え、行動するNPO法人/千葉県山武市の「日向の森」で活動するCHARCOAL & AXEにインタビュー

2022.8.10 掲載

生物多様性の損失に歯止めをかけ、自然をプラスに増やしていくことを意味するネイチャー・ポジティブが世界的な潮流となっている。そして、その具体的なアクションとして2030年までに陸と海の30%の健全な生態系として保全していく30by30が日本においても進められている。そこでまちがいなく急所となるのは森の存在だろう。

そういった森について人の関わり方から捉えなおし、千葉県山武市の市有林である「日向の森」で独自の活動を展開しているNPO法人CHARCOAL & AXEにオンラインでインタビューし、その考え方や活動について伺った。

様々な変遷を経た「日向の森」

様々な変遷を経た「日向の森」

20年間、人との関わりが断絶していた森

山武杉の産地として知られ、江戸時代の後半から林業が盛んだった千葉県山武市。しかし明治時代には一度に山のすべての杉を伐採する皆伐式によって山武の森は荒れ果てていった。その状況を憂い、再生に尽力したのは地元の林業家であった蕨真一郎と直治郎兄弟だった。2人は杉の生育を妨げる山武地域の乾燥しやすい土質への対策として松との二段造林や森林の景観や多面的な機能を損なわない間伐・択伐という手法などを実施し、森林と林業を復興していった。だがその後、「国産材の需要が減り、そこに山林所有者の高齢化・担い手不足が重なり、さらに幹の内部が腐って柔らかくなる山武杉独特の樹病である非赤枯性(ひあかがれせい)溝腐病の蔓延によって山武地域の林業は次第に低迷していきました」と取材に同席した山武市役所 農政課の伊藤勇氏は話す。

その中で山武地域には人の手や意識が遠のいた森が増えていった。NPO法人CHARCOAL & AXEが活動の舞台としている「日向の森」もその一つだった。森には人工林と天然林がある。人工林は伐採など人の手が加わっているか、加わることが中断されて間もない林。天然林は人の手が加わっていないか、あるいは加わったとしても数百年たち、自然の力で維持されている森林を言う。日向の森は前者にあたり、人工林であるがために自力で森を維持できる力を有しておらず、およそ20年間人の営みとは大きな隔たりが出来てしまったことで藪が伸び、荒れ放題となっていた。そんな日向の森に5年の歳月をかけて新たに手を加えていったのがCHARCOAL & AXEだった。

森の入り口に施された五角形のトンネルの意味

日向の森は標高50mの丘にあり、いわゆる里山と呼ばれるものに入る。資料として見せていただいた衛星写真には谷の部分に農業が営まれていた形跡が残り、人が関わっていたことを感じさせる。かつては人々がこの森に頻繁に出入りし、子どもたちにとっては恰好の遊び場だったのかも知れない。

CHARCOAL & AXEの理事である佐瀬 響氏は日向の森について「たくさんの学びが詰まった場所」であると説明してくれた。そして、その学びの場の一つであるイベントやワークショップでは今、多くの子どもたちが目を輝かせながら集うという。

佐瀬氏はそういった取り組みの中で頭で理解するよりも「五感を使い体験する」ことを重視する。それについて最も象徴的なのは森の入口に設けられた五角形の鳥居風のオブジェが並ぶトンネルだ。オブジェの底辺部分が地中に埋まっていることでその図形は理屈上では五角形ではない。しかし、身体がトンネルをくぐりながら地中をイメージすることで直感的に五角形と認識できるという。
そして、その五角形の底辺と同じように地中が森を支えていることに気がついていく。森では雨水がゆっくりと土に浸透し、木々の根を潤しながら、やがて谷に清水として湧き出ていく。他の山岳地帯の森ならそのプロセスは100年を超えることも珍しくないが、日向の森ではそれがおよそ12年で完結する。そして湧き出た水は、実はその森の健康状態のバロメーターになっている。日向の森の清水が溢れる谷では、蛍や絶滅が危惧されているトウキョウサンショウウオ、そしてアカガエルの姿も見ることができる。つまり、それはこの森が健康であることを教えてくれている。

「五感を使い体験する」 森のトンネル

「五感を使い体験する」 森のトンネル

森林の環境をつくり直し、出会い直す

また森では溝腐病で中折れしている山武杉に施された彫刻と出会うこともできる。その一つひとつは、森の管理を怠った人間たちへの無言の訴えがひしひしと伝わる作品に仕上がっている。この森には遊具は何ない。しかし、子どもたちはいつしか目に見えなかったものと聞こえなかったものを見、聞くことに夢中になっている。

CHARCOAL & AXEの代表を務める栗原幸利 氏は、この森の学び方について「考える」ことを強調する。「山武の林業に限らず日本の林業が低迷していったのは、経済的側面や生産性を重視し、未来性というより大切なことを考えようとしなかったからだと思っています。だからこそ、知識を得ただけで終わるのではなく、木が何を伝えたいか、森が何を求めているか、それを考えていくこともこの森から学ぶことにつながると思います」と話した。

では、なぜCHARCOAL & AXEは、五感で感じ、そして深く考えるといった人に焦点を当てているのだろうか。それは人工林が人との関わりなしでは存続できないからだ。まるで子育てのように人工林は、人による適切な手入れを必要とする。CHARCOAL & AXEの活動のポイントに人による森林の環境のつくり直し、出会い直しを挙げているのもそのためだろう。

  • 森に触れる子供たち
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森に触れる子供たち

課題解決に必要なのは価値観の更新

今回のインタビューにオンラインで参加し、森林管理や木質バイオマスの専門家として山武市の森林管理を支える地域林政アドバイザー佐藤政宗氏は森には経済的価値だけではなく、公益的価値があることを補足した。佐藤氏は日本学術会議の試算した森林の有する多面的機能を紹介し、その数値、毎年年間70兆円強になると教えくれた。さらに森林の成長過程で密集化する立木を間引く間伐等で森林が適切な成長や本来の機能を発揮できれば1㎥あたり約1400円の利益を創出し、およそ2万㎥の木材資源を有する日向の森で適切な間伐が行われたと仮定すると2千800万円に相当する価値を生み出す可能性があるとのことだ。そして、それは人が森林にどう関わっていくか、に委ねられている。

冒頭に紹介したネイチャー・ポジティブや30by30においても人や企業、そして社会が自分ごととして自然と関係していくことが何よりと先決になる。地球環境問題は、難問中の難問と言われ、その解決には既成概念の枠を超えた発想の転換が急務となっている。それは森も同じだ。人がより良い方向へ森林を成長させていくためにも完全な正解はなく、そこに関わる人が木々の反応を見ながら自身の価値観を更新していかなければならないと栗原氏は話す。

森林の成長と人の成長は、日向の森の五角形のトンネルのように深い部分で連鎖している。その連鎖の在り方を変革することは容易ではない。しかし、栗原氏はそこに「余計な緊張感はいらない」と話す。それは日向の森に木々も人も育つ開かれた森の風土が根付き始めているからだという。「だからゆっくり急げばいい」と同氏は微笑む。

日本の森林面積の約4割は人工林となっている。その一つひとつに人がどう関わっていくか。日向の森が多くの人に認知され、そのモデルケースとなっていくことを願うばかりだ。

  • 森で行われたイベントの様子
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森で行われたイベントの様子