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2050年カーボンニュートラルの実現に向けて グローバルリーダー・カンパニー CDPAリスト受賞企業が代表スピーチPart2

 グリーン購入ネットワーク(以下、GPN)は3月10日(水)にGPNセミナー「サプライチェーンのリスクマネジメント~原材料調達のリスク管理・評価~」をオンラインで開催した。
 環境問題や人権・労働など、サプライチェーン上で様々な課題を持つ持続可能な原材料の調達。それらに対応するにはリスクマネジメントとリスク管理が求められる。
 そこで今回のセミナーでは、サプライチェーンのリスクマネジメントの重要性や、原材料調達における原産地のリスク管理について、評価する側と企業の2つの視点から講演を行った。
 評価の観点からはCDP Worldwide-Japanの榎堀 都氏、企業側からは味の素株式会社 サステナビリティ推進部 シニアマネージャー 太田 史生氏と国際航業株式会社 LBSセンシング事業部/RSソリューション部/森林・林業グループの戸田 真理子氏が登壇。
 CDPの榎堀氏は「持続可能な原材料調達――原産地のリスク管理と評価」について情報開示した企業のスコアリング等で実施しているリスク評価の手法を解説した。味の素の太田氏は「味の素株式会社 取り組み事例(パーム油の取り組み)」と題して講演。生産地の急激な拡大によって新規農園開発を目的とした熱帯雨林の伐採等が問題となっているパーム油に対する同社の取り組みを語った。
 国際航業の戸田氏は「衛星システムによる原産地のリスク管理」をテーマに同社が強みとする衛星画像を活用した森林減少・劣化のモニタリングシステムや森林減少ゼロ支援サービスについて話した。
 ここではCDPの榎堀氏の講演の要旨を紹介する。

持続可能な原材料調達――原産地のリスク管理と評価
CDP Worldwide-Japan 榎堀 都氏

企業のESG経営と情報開示を促進

 CDP は2000年にロンドンで設立されたNGOでありニューヨーク、ベルリン、北京、サンパウロなど世界中に拠点に置いて活動を展開。いち早くESGの重要性を見出し、企業の情報開示を促し、得られたデータを投資に活かすシステムを構築した。
 このことで多くの投資家が企業のESGの取り組みに関する情報を得られ、企業の行動を促すことができる。投資家については世界では500機関以上、日本においても18機関が署名している。
 また投資家や顧客企業の要請によって回答する企業は年々増え、2020年には9600社以上、およそ1万社に迫ろうとする勢いがある。また調達先にCDPを通して質問書を送っている機関は全世界で155以上あり、2021年今年はもっと数が増える予定である。
 活動の対象となるテーマも当初は気候変動だけだったが2010年からは水セキュリティ、2012年からはフォレスト(森林減少リスク)へと広げている。

日本UNEP協会 代表理事 鈴木基之氏

森林減少の40%を引き起こすコモディティの生産取引

 気候変動の分野ではTCFD提言が発表されたことで開示の基準ができ、CDPが送る質問書はTCFD提言と整合した質問書となっている。水や森林の課題も気候変動に密接に関係していることから、水やフォレストの質問項目にもTCFDに関連する質問を設定している。また各開示データに対するベストプラクティスを特定するためにAからDまでのスコアリングを実施している。そして実際にAリスト企業を含めた企業の開示内容やスコアは世界中で活用が広まっている。
そういった背景の中でCDPフォレスト質問書では森林減少に関するコモディティの生産利用について質問を設定。対象コモディティは基本的に木材、パーム、大豆、畜牛品の4つとなっている。世界では1分間にサッカー場30個分の喪失があるとの報告も聞かれる熱帯雨林。この減少の40%はこれらの4つのコモディティの生産の取引に起因するといわれている。またこれらに加えて、2018年より天然ゴム、2020年よりカカオとコーヒーも試験的に開示を求めることとして追加した。
質問書ではまずコモディティの生産地の情報を聞き、リスク評価について、また森林減少に基づく事業リスクや機会、ガバナンス、事業戦略といった内容を盛り込んでいる。また森林減少リスクへの対応では具体的に目標設定、トレーサビリティ、第三者認証、コミットメント、法令順守、サプライヤーや小規模農家との協働など細部にわたって質問している。
スコアリングで重視している項目は特に森林減少につながらないコモディティの生産や消費のための方針という部分が大きく、次にリスクや影響評価、そして持続可能な調達についてのトレーサビリティや認証を重視している。

サプライチェーンマネジメントをサポートする戦略ロードマップ

 コモディティの直接生産者までつながるようなサプライヤーエンゲージメントでは、原産地のリスク評価が直接関わってくる。これに関してはCDPサプライチェーンプログラムが有用となってくる。このプログラムはもともと投資家からの要請を受け、CDPに回答していたウォルマートがこの質問書を自社のサプライヤーに送付したことから始まる。
 同プログラムはフォレスト分野では2017年から開始。2020年には19社がメンバーになり、質問書を受け取ったサプライヤーは全世界53か国700社以上となっている。
 サプライチェーンマネジメントを行うといっても一朝一夕でできるものではない。そのためにサプライヤーと協働するための戦略ロードマップをCDPでは提案している。そこでは基礎づくりやキャパシティビルディング、パフォーマンス改善が盛り込まれている。

「ネイチャーSBT」という新しい取り組み

 新しい取り組みも紹介したい。世界の平均気温の上昇を2℃未満に抑えるために、企業に対して科学的な知見と整合した削減目標を設定するよう求めるSBT(Science Based Targets)というイニシアチブ。これが昨年から気候変動だけではなく、淡水や海洋、陸上、生物多様性に関してまで拡大しようという動きがある。これらを総合して「ネイチャーSBT」と呼んでいる。気候変動の課題と自然の課題が密接に結びついている。どちらか一方でのアプローチでは解決できない。両方の側面から野心的な目標を設定していくことが問題解決に重要であるという認識のもとで設定を促進している。「ネイチャーSBT」がカバーする国際的な条約や取り決めの範囲は、気候変動枠組条約だけではなく、生物多様性条約や砂漠化対処条約、SDGsにも関連している。
 目標設定に関しては気候変動のような具体的な方法論ができていない。だがステップ1.評価、ステップ2.理解・優先順位付け、ステップ3.計測・設定・開示、ステップ4.行動、ステップ5.追跡という流れができている。重要視したいのはステップ1。まず目標を設定するにあたり、自社の属するセクターにおいて一般的なマテリアリティは何か、そして自社のバリューチェーンに関連する影響、依存性を地域別に洗い出し、自社にとって重要な課題を特定することが求められる。
原産地のサステナビリティの改善や原産地のリスク管理や評価はこれだけを実施すれば良いというものはない。突き詰めれば詰めるほど終わりのないものとなる。情報開示から始め、サプライヤーにも活動を促すという一歩踏み出した戦略が今後も必要となるだろう。