月刊 Vane Online 環境・CSR情報誌「ヴェイン」公式サイト
オールジャパンで地域の脱炭素を加速する地域循環共生圏(ローカルSDGs)

 この8月も世界で、日本で深刻な気象災害が起きた。そして「人類に対する厳戒警報」とグテーレス国連事務総長が評するIPCC第6次評価報告書が8月9日に公開された。今、地球はまちがいなく人類に脱炭素社会への本気の取り組みを求めている。
 そういった緊迫した状況下で環境省 環境事務次官 中井徳太郎氏を訪問。同省が提唱して3年となる地域循環共生圏(ローカルSDGs)の役割などについてインタビューを行った。

温室効果ガスの削減目標の達成へバージョンアップ

 ――2018年4月の第五次環境基本計画でのローカルSDGsともいえる地域循環共生圏の提唱から3年が経過し、2020年10月の菅総理の「カーボンニュートラル宣言」で日本は、2050年脱炭素社会の実現を目指して動き始めました。その中でローカルSDGsはどういった状況にあり、今後どのような役割を果たしていくとお考えでしょうか。

中井:少子高齢化が加速し、地域消滅という危機に直面する日本において、それを打開するためにSDGsを現場や地域・暮らしの目線で展開する自治体や企業、そして生活者の皆様に対して打ち出したのが地域循環共生圏(ローカルSDGs)です。提唱から3年が経過した今、そのプラットフォーム事業には登録地域が98地域(2021年7月24日現在)となっています。
 またローカルSDGsを実現するには自治体や企業など手を挙げてくれる主体が大事になる他、金融機関や他の団体・企業との連携も求められますので、企業等登録制度というのを併せて設けました。これには現在、112の企業等(2021年7月30日現在)が登録されています。ここでは様々な地域でローカルSDGsの模範事例のようなものができ、地域の目線から自然の恵みというポテンシャルを引き出し、今ある技術やこれからの技術、IT、DXと融合する地域循環の新たな波が生まれていたのです。
 そういった中で昨年の10月には菅総理のカーボンニュートラル宣言があり、今年の4月にはその中間目標として2030年度に2013年度比46%削減と50%の高みに向けた挑戦を表明しました。そのことでローカルSDGsの構想にも新たなギアが入り、環境省からステージアップして、オールジャパンで進めていく方向となったのです。今後はよりダイナミックに国全体のメッセージとして、日本政府を挙げて各省、オール自治体、そしてより多くの企業や団体を巻き込んで取り組んでいく段階に入っていきます。そして温室効果ガスの46%削減を達成するというマグニチュードの効果が出せるものにバージョンアップしていく予定です。

環境省 環境事務次官 中井徳太郎氏環境省 環境事務次官 中井徳太郎氏

100か所の「先行地域」から「脱炭素ドミノ」を起こす

――カーボンニュートラルの目標達成とローカルSDGsの推進はどのような位置関係になるのでしょうか。
中井:2050年のカーボンニュートラルや2030年度の46%削減にしても削減=切り詰めといった誤った受け止め方をされる可能性があります。カーボンニュートラルは、病んでいる地球をサステナブルという健康の状態に移行するというメッセージです。つまりCO2をはじめとする温室効果ガスが減れば減るほど地域も暮らしも豊かになっているのがカーボンニュートラルの未来像であるべきです。そしてその像を具体的に描いているのがローカルSDGsとなります。
 温室効果ガスが減るという状態を分解するとエネルギー消費や温室効果ガス排出がより少ない技術の製品の導入、そしてビジネスモデルや消費者の志向の変化が浮かび上がります。それが可能となるようにまずエネルギーの供給構造を地域の資源を活かした再生可能エネルギー中心に変えていく必要があります。また大量生産、大量消費、大量廃棄というリニア(線形)なモノの流れをサーキュラーというごみが出ず、モノや資源が常に回っている、という社会の仕組みに移行しなければなりません。そのためには消費者の意識や事業者のビジネスモデルもシェアリングやサブスクリプションといった方向に変わっていくべきでしょう。ローカルSDGsはそういった内容をより具体的に施策へ織り込み、地域で実現していくというステージに入ったと思います。

――カーボンニュートラルと今後も伴走していくローカルSDGsですが、今後どのようなロードマップで進んでいく予定ですか。
中井:カーボンニュートラルの目標達成と共に走り、ローカルSDGsによってさらにダイナミックに環境を今の病気の状態から健康へと移行していくために、官房長官をヘッドに各大臣が加わり、「国・地方脱炭素実現会議」が立ちあがりました。その中で暮らし・地域の現場に則したロードマップとして「地域脱炭素ロードマップ」をこの6月にまとめました。
 そのポイントは、自家消費型太陽光発電、省エネ住宅、電動車、食ロス対策などの重点的施策を全国津々浦々で実施しながら、2030年までに100か所の「脱炭素先行地域」をつくるということ。それは住生活エリア、ビジネス・商業エリア・自然エリアといったいろいろなエリアバージョンになりますが、そういった先行エリアがドミノのように広がり、2050年を待たずに脱炭素で強靭な地域社会を全国で実現していくロードマップとなっています。2050年までけっして多くの時間はありません。そのために特に5年10年が大事になってきます。

多彩な主体者がつながり、本気になれる仕掛けづくり

―――このロードマップを実現していく上で鍵になるものは何でしょうか。
中井:やはり主体者の後押しができる資金支援が大切だと思います。そのために脱炭素事業に意欲的に取り組む地方の自治体や事業者等を複数年度にわたり支援するスキームを構築していく予定です。また金融面では民間投資の呼び込みをより効果的な方法で実施していきますし、地域のESG地域金融の案件形成やその体制構築にも力を注いでいきます。
 資金に加えて脱炭素事業を推し進めていくためには人材や技術面でのサポートも重要になります。そういった相談窓口体制を地方環境事務所が中心となり、連携枠組みや支援ツールを組み合わせて支援をしていきます。これは窓口としては地方環境事務所が果たしますが、国の地方支分部局が縦割りを排して水平連携していくことが特徴であり、冒頭に話したオールジャパンであることが徹底されています。

――ローカルSDGsの担い手は、地方公共団体や企業やNPO、また個人など様々に広がり、さらにそれらがつながりを見せています。ここで課題となるものは、どこにあると思われますか。
中井:暮らしや地域の現場からいうと、地域といえば行政主体として自治体がありますが、その首長や市の職員がくまなく地域を見られるわけではありません。地域の暮らしの主体はまさしく地域の住民であり、地場の産業であり、そこにはお金を流す金融機関、あるいは学術的なローカルな研究機関も必要でしょう。だからこそ大切になるのはSDGsでいえば17番目のパートナーシップになるわけです。そこを一歩後押するサポートが課題になると思います。そのために冒頭で紹介した連携を加速する企業等登録制度といったプラットフォームをオールジャパンバージョンに強化していきます。
 またローカルSDGsの実践にはIPCCの報告書によって危機感を持ってもらうことも重要ですが、いろいろな主体が本気になって地域を豊かにしていくための仕掛けが不可欠です。そのために地域の資源に着眼し、地産地消型消費行動を誘導し、加速するポイント制のようなライフスタイル施策もロードマップで打ち出しています。主体の幅広さというのは必然であって一人ひとりが問題意識を持ってもらうことが必要だと思っています。

アフターコロナと次世代の育成を視野に

――コロナ禍では人と人をつなぐオンラインが加速しました。このことはローカルSDGsの推進にとってどのような効果を発揮していくとお考えでしょうか。

中井:今までは農村から都市に人が流れてきました。しかしコロナ禍の中ではオンラインによってワ―ケーションが行いやすくなるなど今、東京への流入が減り、分散化が起きています。そして東京といった都市にいなくても暮らしの豊かさを享受できる、DXが進んでいます。また地産地消が進むことで地域が豊かに、そして魅力的になり、地域へのアクティビティも充実していくことでしょう。ある意味、アフターコロナの展開の中でカーボンニュートラルがあり、ローカルSDGsの完成もあるという見方もできます。

――ローカルSDGsの新たな担い手はまちがいなく、次世代の若者や子どもたちになると思います。未来世代にこの構想を浸透させていくために取り組んでいることは何でしょうか。

中井:環境省は、脱炭素社会・循環経済・分散型社会の実現を目指す一環で、地域資源を最大限活用しながらローカルSDGsの実現に取り組むリーダーを育成する実践型研修プログラム"migakiba(ミガキバ)"を全国5か所で実施しています。これにより、地域に持続的な好循環を生み出していきます。これは約3ケ月にわたるプログラムでローカルSDGsとは何かを学習しながら、地域で取り組んでいる先行事例などを学び、若手の地域でプレーヤーになる人材を育成するという事業です。
このプログラムは地域の持つ独自の環境資源や文化を域内外の視点から探索し"磨き上げ"、地域に持続的な好循環を生み出すローカルSDGsを実践する次世代リーダーを育成していくことに眼目を置いています。
 もう1つはESD(Education for Sustainable Development=持続可能な開発のための教育)
を日本各地に広げていくためにESD活動支援センターと全国147箇所に地域ESDの拠点(2021年8月10日現在)があるのですが、そこではローカルSDGsの取り組みや森、里、川、海という自然体験の豊かさを軸に地域資源という発想でモノを見ていく教育を子どもたちに行っています。

――待ったなしで進めなければならないカーボンニュートラル。しかし、それは何かを切り詰めるだけではなく、地域で新たな豊かさを増幅してこそ達成でき、その中でローカルSDGsが果たす役割がよく理解できました。本日はありがとうございました。