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東洋学園大学SDGsフォーラム SDGsと脱炭素社会の未来~人類の明るい持続可能な社会構築は可能か~

 人類は様々な危機に直面してきた。その中で今、私たちは2つの危機の渦中にいる。それは言うまでもなく、気候危機とパンデミックとなる。度重なる風水害によって多くの人命や暮らしが失われ、新型コロナウイルスは減少傾向を示しながらも、この経験により、我々は新たな感染症の世界的流行が起こる可能性を知らされた。
 この東洋学園大学SDGsフォーラムは、そういった背景の中でSDGsと脱炭素社会の意味を問い直し、どのような新しい社会を目指すべきかを考える内容となった。
 10月17日(日)にZoomウェビナーで開催された同フォーラムでは、SDGs時代を語るのに最適な各分野の第一人者であるニールセン朋子氏(在デンマーク・Cultural Translator)、井田徹治氏(共同通信社編集委員)、辻井隆行氏(ソーシャルビジネスコンサルタント/社会活動家)の3氏が登壇。SDGsと脱炭素社会の未来について語った。
 ここでは3氏の講演内容の概要を紹介する。

図1 発電所位置図,図2 風車概要

【ニールセン朋子氏】

デンマーク在住。Cultural Translator。インターナショナルフォルケホイスコーレLollands Højskole理事。AIDA DESIGN LAB理事。ジャーナリスト、コーディネーター、アドバイザー。会社員、米国留学を経てフリーの映像翻訳家として独立。2001年よりロラン島在住。森の幼稚園運営委員、ロラン市地域活性化委員を歴任。デンマーク・インターナショナル・メディア・プレスセンター代表メンバー。2012年デンマーク・ジャーナリスト協会東デンマーク地区ジャーナリスト賞受賞。18歳となる高校3年生の息子とともに、ロラン島の旧農家に暮らす。2021年デンマーク地方自治選挙ロラン市議会議員候補。
著書:『ロラン島のエコ・チャレンジ〜デンマーク発100%自然エネルギーの島(2012)

デンマークの学校から日本のSDGsを考える

 私は世界一幸福な環境先進国と呼ばれるデンマークで暮らし20年となり、今、日本とデンマークをつなぐ様々な仕事をしている。
 デンマークの学校は日本と比較し、自由度が高く、多彩な取り組みが行われ、包括的でインタラクティブな学びが展開されている。最近人気があるのは1つの国を取り上げ、そこに暮らす子どもたちとオンラインや手紙などで実際に関わりながら、その日常生活を通して世界を知るというもの。
 2020年、ある学校ではウガンダを選び、特にSDGsの17のゴールの中から「貧困をなくそう」「質の高い教育をみんなに」や「ジェンダー平等を実現しよう」「人や国の不平等をなくそう」「平和と公正をすべての人」に中心に据えた学びを実施。ここでもウガンダの実在の村にアプローチし、実際にその様子を聞いた。
 現実に苦しんでいる人と会い、困っている事柄に関しては、自分たちでケーキを焼いて販売、その収益の寄付もした。
 またそこで得たことを提言としてまとめ、首相などの省庁にプレゼンテーションを行い、それを受けた側は何らかのアクションを起こすことが義務付けられている。
 さらに、ウガンダ人から実際に話を聞くことで、公式なレポートが真実でないことも浮き彫りになり、新たなレポートも発信した。

SDGsからインスピレーションを得るデンマークの企業

 企業の姿勢も日本と異なる。国連グローバル・コンパクトにはデンマークの400もの企業や団体が加盟している。国連グローバル・コンパクトは、各企業・団体が持続可能な成長を実現するための世界的な枠組みづくりに参加する自発的な取り組みとなる。
 ここに日本の企業・団体もほぼ同数が加盟している。しかしデンマークの人口は580万人であり、両国の意識のちがいは明白だ。
 またデンマークでは、企業のほとんどがSDGsの達成に大きな影響を与えられると考えている。自分たちの企業や団体で何かできることがある。だからできることから始めようという考え方が主軸になっていることが伺える。そして特に「すべての人に健康と福祉を」「ジェンダー平等を実現しよう」「働き甲斐も経済成長も」「つくる責任 つかう責任」に力が注がれている。
 従業員5000人以上の大企業ではSDGsを新たなビジネスを生み出すヒントにしている会社は62%にのぼり、縛りではなくインスピレーションとなっている。大企業だけではなく、中小企業もSDGsを戦略子構築のガイドラインとして利用している企業は85%となる。
 デンマークでは気候法が昨年の夏議会で可決され、2030年までに1990年比で70%削減を法律で明記している。この根幹には2012年に作られたエネルギー政策があり、2050年までに完全にエネルギー分野で化石燃料から脱却することが決められている。そして、そのロードマップにSDGsも取り込まれている。

農業のグリーンシフトに舵を切き、基幹産業の養豚業も縮小

 暮らしにおいても人々の関心は、そこに向き、現在ベジタリアンやフレキシタリアンも非常に増え、18歳から34歳が4人に1人ベジタリアンフレキシリアンとなっている。また「肉食を減らそう」というキャンペーンも政府が実施している。
 10月4日、大きな政策が決定した。デンマークは農業のグリーンシフトに舵を切る。農業の分野でも温室効果ガスの排出を2030年まで55%から65%削減することを決めている。デンマークは養豚農家が非常に多い。日本に入っている豚肉の12%もデンマーク産となる。その生産も少しずつ減らし、基幹産業である養豚業を縮小していこうという動きもある。
 日本ではSDGsに関しては中身をよく知るというコトが大事だと思う。いろいろな世代、いろいろなステークホルダーの人が正しく理解をしていくことが今後も求められるだろう。気候変動の現状を伝える記事も日本のジャーナリズム全体としてはまだまだ少ない。日本の企業や政治の透明性も重要だ。それらをデンマークの社会にいて感じる。

【井田徹治氏】

共同通信社編集委員兼論説委員。
東京都生まれ。1983年東京大学文学部社会学科卒業、共同通信社に入社。2001年から2004年、ワシントン支局特派員(科学担当)。環境と開発の問題を長く取材、気候変動に関する政府間パネル総会、ワシントン条約締約国 会議、環境・開発サミット(ヨハネスブルク)、国際捕鯨委員会総会など多くの国際会議も取材している。
著書:『カーボンリスク―CO2・地球温暖化で世界のビジネス・ルールが変わる』
(2006)、『生物多様性とは何か』岩波新書(2010)、『グリーン経済最前線 (岩波新書)』 岩波新書(2012)等多数。

3年間で日本列島と同じ面積の熱帯雨林が消滅

 共同通信で30年以上、環境問題の取材をしてきた。今日はその中で取材・撮影してきた内容をピックアップして話していきたい。
 アジアのインド洋に浮かぶ島国であるモルジブでは、海面の上昇や侵食が頻繁に起きている。大雨の後に水が引かなくなり、大きな水たまりなどもできている。
 このことは、気候温暖化と感染症の関係をさらに近づけてしまう。地球上で一番危険な動物は実は蚊であり、蚊が媒介する感染症で死亡する年間の人口は猛獣に襲われて命を落とす人の数とは比べ物にならない。そして、その蚊は水たまりなどがあると多く生息してしまう。
 世界中の熱帯及び亜熱帯地域で発生していたデング熱も日本で見られるようになった。一方、森に目を移せば減少が著しいのは熱帯林、3年間で日本列島と同じ面積の熱帯雨林が消滅している。
 マレーシアは生物多様性が豊かな国だ。一見、その森は豊かに見えるが、それは油ヤシのプランテーションであることが多くの、そのスケールに圧倒される。本来は天然林が合ったところがパームオイルのための油ヤシに代わった。パームオイルは植物油がとれ、マーガリンなど日本人の身のまわりに使われる数多くの製品となっている。油ヤシのプランテーションの拡大が、東南アジア森林破壊の原因となっている。
 アフリカではコンゴ川流域を訪れたことがある。ここはアマゾンにつぐ世界最大の熱帯林であり、アフリカゾウやゴリラ、チンパンジーが普通に見られる。またコンゴ川の水は清浄でそのまま飲めると言われている。
 この森の中に広大な伐採道路が造られ、木がここからどんどん切り出されている。

生物多様性も崩壊させる森林破壊

 この熱帯雨林にあまり知られていない問題がある。それはブッシュミートハンティグだ。訳せば「森の肉の狩猟」となる。熱帯林の先には伐採キャンプがあり、大量の労働者が生活している。彼らの食料は、森の生き物。それを捕獲して食べる。それがブッシュミートクライシスを起こしている。つまり、生物多様性の破壊が森林破壊と同時に起こっている。
 カンボジアでも同じことが起きている。
 生物多様性の破壊だけではない。野生動物と接触が増えれば、新型コロナウイルスと同様に動物由来の感染症が増える。実際、エキゾチックペットと呼ばれる野生生物を買い、ペットにすることが日本人の身の回りにも起き、パンデミックをもたらすような消費となっている。
 土地劣化もどんどん進んでいる。中央アジアにはアラル海という湖があった。その湖は灌漑で水を取り尽くし、どんどん干上がり、塩分濃度が濃くなり、生きるものがいなくなってしまった。かつては世界第4位の湖だった。今、世界最大の環境破壊と言われている。世界における土地劣化の勢いは止まらず、3年で日本列島を一つ無くほどになっている。毎年日本列島3分の1ほどの土地が、人が乱暴に使うことでダメになっている。
 プラスチック汚染も目を覆いたくなるものが多い。美しいはずのセルビアのドナウ川もプラスチックごみで汚染されている。

今、求められるのは根本的な変革

 気候危機、森林危機、生物多様性の危機、そしてプラスチック危機。地球には危機が蔓延している。人類は大きく変わらないといけない。今、考え出されているのがトランスフォーマーティブチェンジだ。トランスフォーメーションというのは、単なる変化や改革ではなく、蛹が蝶になるようにまったく姿を変えることを言う。
 気候危機も脱炭素だけではなく、根本的な変革を迫られている、限られた時間の中でそれを行わないといけない。では何をするべきか。それは何よりもなおざりにしていた環境というものを根本において世の中を創り直すことだろう。それがSDGSの根本精神だと思う。一般市民にはそういった志のあるリーダーを選ぶ選挙と共に自分たちが声を発していくことが大事だ。「チョイス」と「ボイス」で17のゴールで世の中を変えていく覚悟を持っていきたい。

辻井隆行氏

ソーシャルビジネスコンサルタント/社会活動家。
1968年生。早稲田大学大学院社会学科学研究科(地球社会論)修士課程修了。99年、パートタイムスタッフとしてパタゴニア東京・渋谷ストアに勤務。マーケティング部門、卸売り部門などを経て2009年から2019年まで日本支社長。退職後は、企業やNPOのビジョン・戦略策定を手伝いつつ、自律分散型社会の実現に向けた小さなプロジェクトに関わる。また、# いしきをかえようhttp://cange-ishiki.jpの発起人の一人として市民による民主主義や未来のあり方を問い直す活動を続ける。

「もっと良くなりたい!」という果てしなき欲求

 東京の下町で育ったこともあり、自然環境に憧れ、辺境の地を旅してきた。30歳の誕生日では、野宿をしながらバンクバーを旅したことなども思い出に残っている。
 バンクバーでは森林伐採、クリアカットが進んでいる。カナダの西海岸人の生活はサケ漁に頼っているが、それが森林伐採で大きな影響を受けている。原因は、サケは種を残すために戻る川が、山が丸裸となることで戻れなくなっているからだ。伐採された木は日本でも使われている。
 また、カナダから近いグリーンランドの海洋哺乳類からは水銀が検出されている。ヨーロッパの工業廃水が暖流に乗り、グリーンランドまで届いたことが原因とされている。「もっと良くなりたい!」という果てしなき欲求が、このような辺境の地に影響を及ぼしている。SDGsには「誰一人、取り残さない」という理念があるが、その言葉を借りれば、人は、逆に今までは数多くの人を取り残し続けてきた。その要因は、「もっと」にある。人類の活動によって社会経済や地球環境の変動が急増している現象を「グレートアクセラレーション」と呼ぶが、1950年代あたりから、大加速してきた。
 そして、人間の活動と発明で地球の在り方が変わる人新世(アントロポセン)となった。

人間は自然の支配者ではない

 では我々は何をするべきか。今すぐCO2をゼロにしてもそれは空気中に残り、影響を及ぼす。そのために適応が大事。日本の自然災害では1980年代から風水害が2倍から3倍に増えている。2018年は、年間で民間の保険会社が払った金額は、東日本大震災よりも多い。年々拡大する自然災害に対して、誰が分配を行うか。多くの省庁が並ぶ霞が関だけでは解決しない。現場や自治が大事になってくる。
 緩和に対してCO2を出さないことが望まれる。しかし、そこには複合的な視点も必要になる。電気自動車はCO2を出さない。しかしその蓄電池に欠かせないリチュムの採掘では、CO2が排出され、地下水がくみ上げられることでエビが絶滅し、その影響は、それを食べるフラミンゴにも連鎖している。
 持続可能性は、たとえば100年で育つ木を100年かけて家などに使えば維持できる。自然が回復するスピードで行うことがサステナビリティにつながるだろう。根本的な原因は、人間が自然の支配者と錯覚しているところにある。

幸福は愛する人との人間関係にある

 興味深い研究がある。カナダ・ブリティッシュコロンビア大学(UBC)森林科学教授のスザンヌ・シマール博士の研究だ。氏は温帯性熱帯雨林に30年住み、木には脳はないが森全体はあたかも知的動物のようにコミュニケーションを取っていると発表している。氏の研究によれば森は、地下にある根や菌糸類を通じて明らかに情報交換をしている。たとえば森の入り口で松喰い虫が発生し、ある木が立ち枯れるとその木が情報を送り、森はその虫が嫌いなアロマを送り始める。人間はニューロンとシナプスで思考しているが、その時に流れる脳内物質と同じものが菌糸類の間で交換されていると言う。
 国際交渉への市民の意見反映を目指す世界市民会議が以前、気候変動とエネルギーに関する市民の意見を集める史上最大規模の調査を実施した。その結果、回答者の78%が気候変動の影響を懸念し、66%が気候変動対策を生活の質向上の機会と捉えていることが分かった。日本では残念ながら、気候変動を懸念して何らかのアクションを起こせば、生活の質が下がると思っている人は多いのでないか。
 物欲を満たせば幸せだろうか。ハーバード大学で経済的に豊かな地域と貧しい地域を75年追いかけて調査してきた。結論は家柄や学歴、年収や老後資金の有無は寄与していない。大切なのは愛する人との人間関係だという。幸せの在り方を問い直すときが来ている