第五回UNEPフォーラムがオンラインで開催

削減目標等と現状とのギャップを精緻に捉えた報告書
「排出ギャップ報告書2020」紹介

 UNEPは二酸化炭素排出量の削減目標と現状のギャップを示す「排出ギャップ報告書」の2020年版を発表した。今回のフォーラムでは、代表理事の鈴木基之氏が同報告書の生まれた背景とその役割について以下のように述べた。

京都議定書からパリ協定へ。
プレッジ&レビューという仕組みの誕生

 まず気候変動の世界の取り組みに関する歴史について紹介しながら、排出ギャップ報告書の解説に入らせていただきたい。
 気候の温暖化というものが意識されたのがいつ頃なのか、実は1988年にアメリカの上院議会の委員会でNASAのジェームスハンセン博士の証言が記念すべききっかけであったろうと思う。1958年からハワイの気象台において、大気中のCO2の濃度の変動が連続的に計測されはじめていたというようなことが背景にある。
 1992年には気候変動枠組条約(UNFCCC)が国連の場で締結されている。このときはリオデジャネイロで環境と開発に関する国連の会議も持たれた。
 条約の締約国の集まる会議が毎年行われるようになり、これがCOP(Conference of Parties)である。その3回目の会議(1997、京都開催)において「京都議定書」という日本の京都の名前が付いたプロトコルが締結された。
 ここでは先進国がCO2の排出量をたとえば、ヨーロッパでは8%、日本では6%低減していく、といった2020年への目標を決め、第1約束期間は2012年まで、第2約束期間としては2013年以降を設定したが様々なトラブルがあり、第2約束期間には入れなかった。しかし、少なくとも議定書という締約国が足並みを揃える契機にはなった。その結果、2020年以降、どのような取り組みを行うかという真剣な議論が高まった。
 2010年のメキシコのカンクンで開かれたCOP16においては先進国だけではなく、途上国も含み、世界全体で2020年から始まる仕組みをつくっていくこととなった。
 世界の気温は現在のまま進行していけば、2050年には3℃以上の上昇が想定される。これをどうしても2℃未満に、可能であれば1.5℃以下に抑えていくために各国がCO2の削減目標を自己申告し、それに応じてその成果を評価するというプレッジ&レビューという仕組みがここで生まれた。これがその翌年のダーバンの会議等を経て2015年のCOP21のパリ協定にいたることとなる。京都議定書の場合には、条約に関する調印が整ってから発効まで8年という時間が掛かっている。しかしパリ協定の場合には翌年に発効した。今まさにプレッジ&レビューであるパリ協定の仕組みをいかに実現化していくべきかが、課題となっている。

日本UNEP協会 代表理事 鈴木基之氏日本UNEP協会 代表理事 鈴木基之氏

気候変動に正確な科学的証拠を確立

 昨年COP26がイギリスで開かれるはずだったが、新型コロナウイルスの感染予防のために延期となった。順調に行けばグラスゴーで今年開催される。
 地球規模の気候変動に関しては、世界の科学者が集い、気候変動に関する正確な科学的な証拠を確立し、シミュレーション結果を世界共通のものとしていかなければならない。1988年のハンセン証言が契機となってIPCC(気候変動に関する政府間パネル)という組織が結成された。これはWMO(世界気象機関)とUNEPが協働して設立し、事務局はジュネーブに置かれ、UNEPの中にも条約事務局がある。1990年に第1次評価報告書が発表され、第2次、第3次、第4次と5~6年に1回ずつその現状の排出状況がわかるようになっている。2013/4年に出版された第5次報告書は、関心の広がりに貢献している。
 そして2010年にはUNEPから「排出ギャップ報告書」が提出されている。これは毎年一冊ずつ発表する予定となっているが、この報告書ではIPCCの報告書にあるCO2あるいはGHG(温室効果ガス)に対する収支、将来予測などに対して現状の削減目標などはどうか、そのあるべき姿と現実のギャップに対する定量的な報告をまとめている。

実現可能性に問題が指摘されるネット・ゼロ

 2020年の排出ギャップ報告書の問題設定においてはGHGの傾向はどうなのか、それに対して、カンクンプレッジという各国が申告した目標で大丈夫か、現在の各国の申告の貢献度はどれくらいか、といったことが書かれているが、これを完成させるのは大変な作業であったことが推察される。なぜなら200に近い国の申告を精査し、本当に実現可能か、それは具体的にどう実践するのか、あるいは実践すればどのような効果が上がるかなどについて一つひとつを評価していかなければいけない。また、その方法論を確立していくこともこれからの課題となる。
 科学者はカーボンサイクルを非常に精緻に推定している。森林や農地、草地では、CO2は固定されるが、工業化されている部分では石炭、石油が燃焼され、排出される。排出された半分が海、あるいは陸で固定されるが、残りの半分は大気中に残っていく。大気中に蓄積していくことによって、温暖化が加速される。
 我が国も含め、様々な国がすでに2050年カーボン排出ネット・ゼロを宣言している。しかし、その中身を精査すると残念ながら、野心的とはいいながら、実現可能性については問題があることも指摘されている。
 パリ協定NDC(国が決定する貢献)に関しては、少なくとも今のままでは2100年には3℃以上の上昇になってしまう。これをネット・ゼロにするとせめて0.5℃くらいは抑制可能になる。非常に厳しい状況だが、正確な予測に基づいて今後どういった政策をとっていくべきかが検討されなければいけない。
 また、この報告書ではパンデミックからの復興と気候変動の緩和を目指すグリーンリカバリー(財政的回復策)に関して、積極的な国に比して日本はまだその努力が不足している、というようなことも読み取ることができる。また最後には地球上の人口の富裕な人口の1%の層が50%の貧しい人口全体よりも多くのCO2を排出しているというようなショッキングな数字も記されている。まずは日本UNEP協会が訳したエグゼクティブ・サマリーをそれぞれの立場でご覧いただき、また関心があれば本文も一読していただきたい。

排出ギャップ報告書2020

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