第五回UNEPフォーラムがオンラインで開催

自然への仲直りの行動を地球はきっと受け止めてくれる
UNEA-5(第5回国連環境総会)報告及び
「Making Peace with Nature~自然との仲直り」の紹介

 次に日本UNEP協会理事の吉村皓一氏より、UNEA-5報告及び「Making Peace with Nature」の紹介が次のように行われた。

オンライン開催となったUNEA-5

 私は2017年に開かれたUNEA-3から参加させていただいている。例年この総会は、国連加盟の193の国すべてが参加する大イベントであり、ケニアにあるナイロビのUNEP本部に約5,000名もの人が集まる。敷地内では数多くのステークホルダーや主要グループ、またNGO、企業などが展示を行い、まるでお祭りのような賑やかな会合となる。
 こういった国際会議では国と国、あるいは国とNGO、あるいは国連部局と国が一対一で話す対面での交渉が一番重要となるが、今回、UNEA-5.1と銘打たれたオンライン会議ではそれができなかったため、再開セッションとして UNEA 5.2が2022年3月に開かれることが決定している。

気候の危機、自然と生物多様性の危機、汚染と廃棄物の危機

 UNEA-5.1では、最初にホスト国であるケニアの環境省官房長トビコ氏が開催を歓迎する旨を述べつつ、2022年3月に開かれるUNEA 5.2への期待を語った。
 次にUNEA-5議長のローテバトン氏は、開会声明の中で「前例のない時代だからこそ、世界は新しいやり方に対応しようとしている。今回の会議に151か国が参加していることが環境問題の重要性を証明している」と話し、UNEPの創立から50周年を迎える2022年をUNEP at 50という記念行事とすることを宣言した。さらに私たちの真の課題はパンデミックのあとの持続可能な開発のための流れにどのように乗るか、であり気候変動や生物多様性、環境汚染という3つの問題をすべての国、主要団体、ステークホルダーが協力しあって解決する必要があることを述べていた。
 次にUNEPの事務局長であるインガー・アンダーセンが新型コロナウイルスの流行と3つの地球の危機、すなわち気候の危機、自然と生物多様性の危機、汚染と廃棄物の危機、との間には切っても切れない関係があり、これらは人間がつくりだしたものであると話した。
 そしてUNEPが発表した最新の報告書である「Making Peace with Nature~自然との仲直り」を紹介。この報告書には地球が直面している危機の内容と2025年までの科学的な裏付けを持った解決方法、行動計画が書かれていることを強調した。今回のオンライン会議では様々な予算が決められるが、その予算の決定により、UNEPはますます強力に推進することができると話した。

世界的な危機の中で重要な意味を持つUNEA-5

 オンラインの会議ではユースのグループも発言した。代表の一人である韓国のホアン君は報告書である「自然との仲直り」を読み、この仲直りを行うには、すべての人の参加が重要であると話していたことが印象に残っている。ホアン君は、スピーチで特に金融の人たちの努力を訴えていた。
 続いて国連議長のオズキール氏は、新型コロナウイルスの蔓延により、経済の停滞を余儀なくされた各国が前例のない国家予算の出動を計画しているが、これがさらなる環境負荷を高めることを懸念していた。そして、今回のUNEA-5ではハイレベルの人たちによる合意形成の必要性を強調していた。
 最後に国連事務総長のグテーレス氏が登壇した。スピーチでは新型コロナウイルスにより、数百万人の人が貧困においやられ、中でも女性が重い負担を強いられていることに触れた。そして、この世界的な危機と脆弱性の中でUNEA-5が開催されたこと自体が重要な意味を持っていると語っていた。また2021年には環境を議題にした政府間会合が数多く予定されている。これから3つのCOPも開催されるが、そういった機会の中で2050年にカーボンニュートラルを実現するためには、まず2030年の数値目標を各国が明確にする必要があることを訴えていた。
 今回のUNEA-5.1を振り返ると参加者の4割は女性だったことに意義を感じる。ちなみにUNEPは事務局長のアンダーセン氏、№2である事務局長代理のムスヤ氏、アジア太平洋地域事務所所長のデチェン氏も女性であり、UNEP本部も要所は女性がおさえている。その中でムスヤ氏は、この2日間で登壇した87名の閣僚とハイレベル代表のスピーチを8つのポイントでまとめていた。その8つをここに列挙しておく。

1.自然と人類の健康は表裏一体である。
2.自然の危機と公害の危機は相互に関連している。
3.パンデミックは脅威であると同時にチャンスでもある。
4.パンデミック後はグリーンリカバリーである。
5.グリーンリカバリーは最も貧しい人を考慮しなければならない。
6.グリーンリカバリーは社会全体のアプローチであるべきだ。
7.2021年は変革を強固なものとする重要な年である。
8.UNEPは世界の環境当局として他国間主義に基づいて、3つの危機に立ち向かっていく。

最新の科学的データをもとに経済学、政治の知見を加えた報告書

 次に「Making Peace with Nature~自然との仲直り」について少し話をさせていただく。これはUNEPの最新の統合報告書であり、これまでに出版してきた「第6次地球環境概観(GEO-6)」、「排出ギャップ報告書2020」やUNEP国際資源パネルが出版している数々の報告書の内容を統合し、最新の科学的データをもとに経済学、政治の知見を加えた報告書である。
 新型コロナウイルスは、私たちにライフスタイルの変化が必要であることを知らしめた。今や世界の各国はポストパンデミック対策として従来の経済活動に戻し、落ち込んだ経済を取り戻すために巨額の財政出動をしようとしている。しかし、これまで通りに戻してはならない。経済復興はグリーンにしなければならない。
 グテーレス事務総長も語っていたように、ここ数か月のうちに3つの主要国会議が予定されているが、その中で自然との仲直りが議論されることを祈っての出版となったのではないかと私は考えている。この報告書はUNEP事務局長のインガー・アンダーセンが心血を注ぎ、強いリーダーシップを発揮しながらまとめあげたものだ。

自然との仲直り

「Making Peace with Nature~自然との仲直り」の日本語訳を出版予定

 人類はこれまで、自然を搾取し、傷め続けてきた。そのため、自然はもう人類を養いきれなくなってきており、今私たちがこれまでの考えをあらためて自然との仲直りをしない限り、人類の将来は絶望的であるとこの報告書はメッセージしている。
 それは決して悲観的なものではなく、私たちが仲直りへの行動を起こすことで自然は必ずそれを受け入れてくれるという楽観的なものである。しかし、そのための時間はもうない。少なくとも2050年には私たちのライフスタイル、産業構造、経済構造においてCO2排出実質ゼロを実現しなければならない。そのために各国は、2030年までに達成しなければならない数値目標を具体的に示さなければならない。現在の活動をそのまま続けて、突然2050年にCO2実質排出ゼロになることはない。図の脚注には「若者と将来の世代の幸福は、環境悪化の現状を早急かつ明確に打開することにかかっている」とある。
 パリ協定で目標とされている1.5℃までの目標に抑えるためには、社会は2030年までにCO2の排出量を2010年と比較し、45%下げる必要がある。これを達成すると同時に生物多様性を保全し、回復し、汚染や廃棄物の処理を最適にすることも忘れてはならない。私たち日本UNEP協会ではこの「Making Peace with Nature~自然との仲直り」を皆さんのご支援を得ながら、日本語訳して出版することを現在計画している。どうか期待してほしい。

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講演 一般社団法人食品ロス・リボーンセンター代表理事 山田英夫氏