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世界の水問題に挑む東レが、海水淡水化のイノベーションを加速

'TORAY' Innovation by Chemistry

様々な国々の水供給を可能にする東レの分離膜技術

  •  たとえばシンガポールでは逆浸透膜技術による浄水の50%が東レの技術によって生み出されている。同国は国土が狭く、水源がほとんどない。そのため浄水の大半を輸入に頼っていたが、今後は自給に向けて進んでいくことができるだろう。
     アジア最貧国のひとつバングラデシュでは、日本政府が援助する給水車が村々を巡回。そこで供給される水は東レの水処理分離膜で作られている。現地では逆浸透膜と最先端ろ過膜を備えた浄水ユニットが30機あり、それぞれ1日当たり300人から500人ほどの村民に水の供給を可能にしている。
     今、東レの水処理分離膜は、世界76カ国で導入され、延べ50億リットル以上の水を生み出している。これは400万人が1日に使う水の量に匹敵。世界で深刻さを増し、多くの悲劇を生んでいる水不足。東レの分離膜技術で生まれる浄水は、渇きに苦しむ人々にとって“生命の水”となっている。
     こういった中で逆浸透膜による水処理は、技術革新により造水コストの低減が進み、水問題解決に貢献するインフラ技術として、中東の海水淡水化プラントを中心に世界中で採用が進んできた。
  • 東レの逆浸透膜エレメント“ロメンブラ”

水質を維持しつつ造水量を従来の約1.7倍に

 しかし将来的には、一日に生産できる造水量が数十万トン~百万トンと膨大な超巨大プラントの時代が到来することが予測され、使用エネルギーを抑えつつ、高水質かつ高造水量が必要となってくる。それに対して従来の膜では、造水量を高めると水質が低下してしまうトレードオフの関係があるため、新たなイノベーションが求められていた。
 その課題解決に向けて東レは、これまでの研究・技術開発で、ナノ材料分析で高い水準を有する東レリサーチセンターの技術を活用。逆浸透膜の分離機能層のナノメートル(10億分の1メートル)サイズの微細構造分析を極限追究し、水質を維持しつつ造水量を従来の約1.7倍に高めることに2019年に成功した。