「気候と環境の非常事態」の時代における大学の役割

2022.3.4 掲載

2. 政治家の対応は遅く、
科学者の研究モラトリアムを求める声もある

COP26の結果は不満足で、政府が科学的知見の増大に見合う実際の行動を取るまで科学者は気候変動科学の研究を休んではどうかという声もある。※3

この論説によれば科学と社会の間には暗黙の契約があるという。公的資金による科学研究で世界に関する理解を深めるのは社会的便益をもたらすからである。気候システムに関する危険な人為的干渉については科学的に十分解明されたにもかかわらず、それに見合うだけの政策が取られていない。それは科学と社会の間の暗黙の契約が破られていることを示しているというのである。

この論説には次のようなデータが挙げられている。1970年以来、気候変動科学の論文は27万以上出版されている。政策対応の遅れに抗議する2019年9月の気候ストライキには760万人が参加した。1970年には世界の平均気温は1850~1900年に対して0.26℃高かったが現在では1℃も上昇している。世界の年間CO2排出量は1970年に146.5億トンだったものが現在は366億トンにまで増加してしまっている。生物多様性を示す指標(Living Planet Index)は1.0(1970)から0.6(2010)まで減少してしまった。

ハーバード大学のNaomi OreskesはIPCC/WG1は仕事をよくやったので(気候変動の物理的基礎)、これからは緩和と適応についての評価を強化してはどうかとコメントしている。もちろんこのコメントについては直ちに反論がなされ、気候モデルの改良は今後とも必要でIPCCプロセスは継続すべきであると主張されている。

参考文献
※3. Scientists call for a moratorium on climate change research until governments take real action, 2022年10月

3. 気候非常事態への大学の対応

これについては次の論文が広い角度から論じているので紹介しよう。※4

気候変動は大学に対して次の3つの非常事態をもたらすとしている。
a. マニフェスト(Manifest)非常事態
大学の運営やビジネスモデルへのリスクとして非常事態を声明
b. コンセプテュアル(Conceptual)非常事態
大学の前提、イデオロギー、システム、構造が表明された挑戦のスケールに合わなくなったことから生ずる概念の非常事態
c. 存在的(Existential)非常事態
大学の現在のアイデンティティやパーパスの意義が、概念的な挑戦に打ち勝つために必要な変化を支持することができなくなったために生ずる

詳しい内容を表1に示した。

大学は公共善に奉仕するそれ自身のコミットメントを新しくし、専門分野を超えた構造(post-disciplinary structures)を創造し、世界に実現したいと思う変革を先ず自ら体現する必要がある。気候危機との戦いにおいて、知識、創造、研究のリーダーとして大学のその専門性を生かし脱炭素社会へ転換させる上で特別な地位を占めている。高等教育の主要な目的は未来のリーダーを教育することである。サステナビリティや気候変動についての知識と関連の諸問題に取り組むためのスキルを身に着けた学生への社会的需要が増大している。

戸田建設グループ

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4. 気候非常事態宣言の発出とその目的

英国の大学の気候非常事態宣言(CED=Climate Emergency Declaration)についてはBriony LatterとStuart Capstickによる研究がある。※5
2019年4月17日にブリストル大学が気候非常事態宣言をして1年以内に36大学が続いた。全体で161大学が宣言を行った(Amber et al, 2020)。これらの宣言は英国の市民、学生が気候変動についてかつてない程懸念している時に行われた。この研究では大学のCEDの宣言文を分析している。

【宣言の3つの型】

1)宣伝としての声明 22大学
2)集団の声としての声明 26大学
3)コミットメント(社会への約束)としての声明 18大学

一方、地方自治体のCEDについての研究もなされている。※6

1)炭素削減ターゲットの加速化
 特に輸送、ビルディング、廃棄物、エネルギー供給で野心的な削減目標を設定

2)地域からの排出を削減する行動を拡大する
 公共交通利用促進のためのインセンティブやカー・フリーゾーンの設置など

3)地域の境界の外側で排出されるCO2の削減への取り組み
 いわゆる“輸入された排出量”の削減

参考文献
※5. Climate Emergency: UK Universities Declarations and Their Role in Responding to Climate Change, 2021年5月19日
※6. How communities are using the climate emergency to make big new moves to decarbonize locally, CNCA (Carbon Neutral Cities Alliance), Innovation Network for Communities

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