人類の明るい未来図 ~「脱炭素」と「脱国家」による「永遠平和」のためのデッサン~ (古屋 力)

2022.5.20 掲載

7.協働型コモンズ(Collaborative Commons)と永遠平和

ウクライナ戦争に対し、世界中で、もはや国家ではなく「地球人(Earthling) 」の次元で、様々なアクター間の繋がりが、燎原の火のごとく拡大し、大きなモメンタムとして表出しつつあります。2022年3月3日に、環境平和構築協会は、公開書簡を公表し、ウクライナ侵攻がもたらす短期的・長期的な環境リスクを訴えました※27。また翌日3月4日に閉幕した国連環境総会では、環境破壊を監視し対処するための支援を求める声明をしております。もはや、これからの時代を特徴つけるのは国家ではなく「地球人」としての行動です。そしてこれからの人類社会の基盤となるGlobal Commons Stewardship(グローバル・コモンズの責任ある管理)が担保された新しいプラットフォームは、国家を前提した旧態依然としたプラットフォームではなく、国家のエゴを超越した、まったく新しい超国家的プラットフォームとなります。まさに、それこそが、「人類の明るい未来図」の下地をなすものなのです。

明らかなことは、我々人類は、いまさら人類同士で戦争をしている場合ではなく、早急にこの地球環境という人類の共有財産(Global Commons)を守る最善の方法を設計構築し、行動しなければならない局面に立たされているということです。そして、もはや、あまり時間的猶予がないということです。そのためには、従来型の人類社会システムを抜本的に変えて、エネルギー、食料、資源循環、都市といった地球システムに大きな影響を与える社会・経済システムを大転換し、急速に発展するデジタル技術やデータを適切かつ有効に活用し、歴史的大転換を加速させ、人類と地球が共に持続可能な未来を築く必要があります。その実現には、「脱炭素」と「脱国家」という2つの重要な鍵をヒントに「人類の明るい未来図」を描き、超国家的な国際的プラットフォームを構築することが急務なのです。

それでは、実際に、こうした新しい超国家的な国際的プラットフォームは、どのようなものになるのでしょうか。実は、「協働型コモンズ(Collaborative Commons)」※28がそのヒントになりそうです。「協働型コモンズ」とは、共有資源と協働関係を規定する所有制度を意味し、現代型「共有地(Commons)」とも呼ばれております※29。集団構成員の共通利益を高める形で参加する社会空間で、あらゆるモノをあらゆる人に結びつける統合されたグローバル・ネットワークであるこの「協働型コモンズ」は、単一の稼働システムとして協働しているが、その行き着く先が、市場でも政府でもない、世界で最も古く制度化された自主管理活動の場である「共有地」=「コモンズ(Commons)」なのです。この「協働型コモンズ」が、Global Commons Stewardship(グローバル・コモンズの責任ある管理)を担保できる国家を超越した新しいパラダイムシフトの基盤となります。すでに、従来の資本主義の基本プラットフォームであった「市場」は「ネットワーク」に道を譲り始め、時代は、「私的私有」から「協働型コモンズ」にその軸足を移しつつあります。元来、資本主義経済の大前提であった私的所有自体は、さほど重要でなくなり、個人的な私利の追求は、もはや協働型の利益の魅力によって抑えられつつあるのです。

以下のジェレミー・リフキン(Jeremy Rifkin)の言葉は、「人類の明るい未来図」を洞察した言葉そのものです 。

「無一文から大金持ちへという従来の夢は、持続可能な生活の質という新たな夢に取って代わられつつある。… その結果、市場における交換価値は、協働型コモンズにおけるシェア可能価値に取って代わられつつある。」「誰もが自分の欲しいものの多くを好きなときに、ほぼ無料で手に入れられる社会では、‥‥明日がどうなるか不安で、なんとしてもより多くのモノを手に入れようとする執拗なまでの衝動から、人間の気質のかなりの部分が解放される可能性が高いということだ。」

そして、この「協働型コモンズ」の実現を可能にするのが、画期的なIoTの登場です。ちなみに、IoTとは、Internet of Thingsの略で、コンピュータなどの情報・通信機器だけでなく、世の中に存在する様々なモノに通信機能を持たせ、インターネットに接続し相互に通信することにより、自動認識や自動制御、遠隔計測などを行うことです。このIoTが、相互の情報移転コストと時間差をゼロにし、公平性と透明性を担保することによって「協働型コモンズ」が社会を根底から覆すプラットフォームとして機能ることを可能にします。テクノロジーの急速な進化向上に伴いこの世に登場した画期的なIoTの恩恵を受けて、人々は、広範囲の製品やサービス、製造を相互にネットワークにつなぐことで、効率性を高め、ビック・データや分析、アルゴリズムを利用して限界費用をほぼゼロ近くまでに減らすことが可能となり、ほぼ無料の財やサービスを潤沢に享受でき、人類を労役や苦難から解放される「限界費用ゼロ社会(The Zero Marginal Cost Society)」※30が実現すると言われております。

そして、なによりの福音は、「協働型コモンズ」構築が、「脱炭素」の鍵である「エネルギー・シフト」の実現を担保していることです。つまり、人類が直面している最も深刻で喫緊の課題である気候変動問題解決策として、再生可能エネルギーを組み込みながら、経済活動をより公平かつ効率的に管理できるようにする「エネルギー・シフト」の実現が、IoTを実装した「協働型コモンズ」の登場によって可能となったのです。IoTと再生可能エネルギーの親和性は極めて高く、IoTがその機能を最も発揮できる分野の1つが再生可能エネルギー分野なのです。

再生可能エネルギー技術のエネルギー採取能力は、格段に進化向上し、太陽光発電と風力発電等の再生可能エネルギーは指数関数的に増加しております。これらの初期投資は膨大であるものの、太陽光や風から電力を生み出す単位あたりの限界費用はほぼゼロであり、ましてや、初期投資の減価償却後は、ほぼ無尽蔵な資源が無料で永続的に供給され続ける持続可能性が担保されているのです。加えて、エネルギー自体が、情報に近似している性格があることから、再生可能エネルギーの持つ不安定性や変動制、需給のミスマッチ等の課題も、情報テクノロジーの究極の最適解を提供するIoTの登場によって、需給調整と安定化が可能となり、その問題の太宗が解決できるようになったのです。エネルギーは一種の情報であり、情報革命の中核的な存在であるIoTにとって最も御しやすい対象であり、その意味で、IoTの登場は、まさに、再生可能エネルギーにとって救世主でした。「脱炭素」の鍵となる再生可能エネルギーとIoTの親和性が最も効果的に発揮できる場が「協働型コモンズ」なのです。

IoTの進化発展は、協働型コモンズと再生可能エネルギーを引き合わせ、その2つの歴史的イノベーションの出会いが、「エネルギー・シフト」を実現可能性を担保し、その結果、人類にとって到底解決困難であると半ば悲観的にとらえられてきた気候変動問題に希望の光を与えているのです。加えて、こうしたパラダイムシフト自体が、資本主義経済の大前提であった私的所有からの解放を促し、個人的な私利の追求は、もはや協働型の利益の魅力によって抑えられつつある限界費用ゼロ社会の重要な基幹プラットフォームになりつつあるのです。

※27 75カ国以上から集まった902名の賛同者と156の団体からなる環境平和構築協会の公開書簡では、「私たちは、世界中の平和構築のために人生とキャリアを捧げてきた市民および専門家として、紛争と環境の深い関連性、紛争後の平和と安定にとって健全な環境が極めて重要であること、それゆえ、戦争の環境的側面への取り組みが基本的に重要であることを深く認識している。」と訴えている。

※28 「市場はネットワークに道を譲り始め、モノを所有することは、それにアクセスすることほど重要でなくなり、私利の追求は協働型の利益の魅力によって抑えられ、無一文から大金持ちへという従来の夢は、持続可能な生活の質という新たな夢に取って代わられつつある。その結果、市場における交換価値は、協働型コモンズにおけるシェア可能価値に取って代わられつつある。」

※29 「シェアリング・エコノミー」と呼ばれている。PwCが2014年に実施した調査によれば、「協働型コモンズ」のシェアリング市場規模は2013年の150億ドル(約1.6兆円)から2025年には20倍以上の3350億ドルと伝統的なレンタル市場とほぼ肩を並べるまでに成長するという。

※30 2015年にジェレミー・リフキン(Jeremy Rifkin)が、著書『限界費用ゼロ社会(The Zero Marginal Cost Society)の台頭~モノのインターネットと共有型経済の台頭~』で提唱した新たなパラダイム。限界費用ゼロ社会の到来は、同時に資本主義の終焉でもある。それに代わり台頭してくるのは、人々が協働でモノやサービスを生産し、共有し、管理する新しい「共有型経済」である。

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